ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Carys Davies の “The Redemption of Galen Pike”(1)

 早く David Grossman の "A Horse Walks Into a Bar" の続きを、と思いつつ、きょうも後回し。この1週間、ずっと持ち歩いていた Carys Davies の The Redemption of Galen Pike"(2014)をようやく読みおえたからだ。2005年に創設され、2015年で廃止されたフランク・オコナー国際短編賞(Frank O'Connor International Short Story Award)の最後の受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 人間とは現在だけでなく未来にも生きる動物である。あらゆる生物のなかでおそらく人間だけが、この先自分はどうなるのだろうと考えながら生きている。そしてその予想は当然のごとく、しばしば外れる。なぜか。もちろん自分自身にも原因はあろうが、ショートショートをふくむ本短編集によれば、よきにつけ悪しきにつけ、ひととひとの偶然の出会いから思わぬ結果が生じるものである。たとえば表題作では、コロラドの小さな町の獄舎につながれた死刑囚のもとを信心ぶかい婦人が毎日訪れる。ほかにも、オーストラリアの開拓地では、美しい新妻の前にストーカーのような隣人が現われ、スコットランドの寒村では、妻の死後教会に背をそむけている男を、亡き神父の娘がたえず気にかけ、フランスの海辺のホテルでは、死を自覚した老婦人に同宿の男がふと目をとめる。いずれも一定の予想が成りたつ物語であり、事実途中までその予想どおり進む。しかし最後、思いもかけぬ急展開があり、まったく想像だにしなかったエンディング。いわゆるオチではない。それはまさに「ひととひとの偶然の出会いから生じた思わぬ結果」である。本書は、そういう人生の予想外の瞬間をみごとにとらえたスケッチ集なのだ。深い意味や教訓めいたものはいっさいない。ひとはただ「この先自分はどうなるのだろうと考え」つづけ、意外な結末に茫然となるだけ。それが本書から読みとれる人生の真実である。