ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"4321" 雑感(1)

 ブッカー賞の発表が迫ってきた(ロンドン時間で10月17日)。今年は夏から超多忙で、最終候補作はまだ2作しか読んでいない。Ali Smith の "Autumn" [☆☆☆★★] にいたっては、去年の12月に読んだので内容もうろ憶え。
 というわけで、賞レースを占う資格はまったくないのだか、当たるも八卦当たらぬも八卦、いま読んでいる Paul Auster の "4321"(2017)が栄冠に輝くのではないか、そうあってほしいと願っている。とてもおもしろいからだ。
 例によって何の予備知識もなく取りかかったので、最初のうちは、やたらめったら長いけど、よくあるファミリー・サーガかな、と思っていた。Ferguson という(今のところ)少年が主人公で、その祖父が20世紀初頭、ロシアからアメリカに移住するところから物語は始まる。やがて父親の話になり…うん?
 前の章で事件を起こして、たしか死んだはずの伯父がなんと「生き返り」、また別の事件を起こしている。その事件で Ferguson の父親が殺されたと思ったら次の章で「よみがえり」、新たな人生を送っている。
 当初こそ面食らったが、ははあ、これはたぶん、SFのパラレル・ワールドに近い物語ですね。本ブログで取り上げた作品で言えば、2013年のコスタ賞(長編小説賞)受賞作、Kate Atkinson の "Life After Life" [☆☆☆★] や、2015年の Independent Foreign Fiction Prize の受賞作、Jenny Erpenbeck の "The End of Days" [☆☆☆★] の系列である。
 その2作よりも本書はずっとおもしろい。今のところ、ですが。
 Ferguson 少年はケネディー大統領の大ファン。ダラスで暗殺事件が起きたとき、少年はニューヨークで彼女と初体験。という具合に、有名な史実を織りまぜた青春小説、それからもちろんファミリー・サーガとなっている。
 その書きっぷりが非常に緻密なので、どのパラレル・ワールドにもぐいぐい引き込まれる。これならブッカー賞受賞も間違いなし?
(写真は、宇和島市立宇和津小学校の通学路に面した小道。この付近だけ、ぼくの子供のころとあまり変わっていない)