ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"4321" 雑感(3)

 いやはや、これは重い本だ!
 といっても中身の話ではない。なにしろ分厚いハードカバーなので、通勤読書派のぼくは持ち運ぶだけで腕が疲れる。とりわけ、帰りがつらい。
 例によってカタツムリくんのペースだが、それでもなんとか終盤に差しかかってきた。評価は前回どおり☆☆☆★★★。わるくはない。いや、みっちり書き込まれた力作である。けれども、オースターとしては最上の出来ではない。
 風変わりなタイトルだが、その意味は半分わかってきた。理解しているほうの半分は、同じひとりの人物について4とおりの人生をえがいた小説だということである。
 おもな舞台は1950年代から60年代のニューヨーク近辺。幼い少年だった Ferguson が家庭や学校でさまざまな事件に出会いながら少しずつ成長し、いまやコロンビア大学、もしくはプリンストン大学の学生。はたまたパリでフランス語を勉強中。あるいは…といった具合に「4とおりの人生」を歩んでいる。
 だから、ほんとうは "1234" のはずだし、事実、「1.1〜1.4、2.1〜2.4」という章立てで進むのだが、それがなぜ "4321" なのか。
 そもそも、どうしてこんなSFのパラレル・ワールドに近い物語なのか。いちおう、その説明らしき箇所はこうなっている。…unless you were God, who was presumably everywhere and could see everything that was happening at any given moment, no one could possibly know that those two events were taking place at the same time, least of all the grieving son and the laughing mother. Was that why man had invented God? Ferguson asked himself. In order to overcome the limits of human perception by asserting the existence of an all-encompassing, all-powerful divine intelligence?(pp.238-239)
 つまり、本書はいわば神のごとき立場から、人生の描写について「人間の認識の限界を超え」ようとする「包括的な」試みなのかもしれない。
 そこで構成はこのようになる。If anything, life was more akin to the structure of a tabloid newspaper, with big events such as the outbreak of a war or a gangland killing on the front page and less important news on the pages that followed, but the back page bore a headline as well, the day's top story from the trivial but compelling world of sports, and the sports articles were nearly always read backward as you turned the pages from left to right instead of from right to left as you did with the articles in the front…Time moved in two directions because every step into the future carried a memory of the past…(pp.346-347)
 つまり、たとえば3.4章が終わったら、こんどは4.1章が始まり、ついでに時間も前にさかのぼり、それからまた先へ進む。ただし、それはべつの人生である。
 このように関係のありそうなくだりを拾ってみると、"4321" とは「時間の逆行」を意味しているのかもしれない。
 この解釈が正しいなら、本書のパラレル・ワールドは単なる思いつきではなく、しかるべき必然性をそなえていることなる。その意味でこれは「かなりいい線を行っている」。
 が、物足りない面もある。それについては次回ふれることにしよう。
(写真は、宇和島市妙典寺の裏山からながめた市街。前回アップした桜も見える、ぼくの原風景だ)