ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

LJ Ross の “Holy Island”(2)

 エクセルに打ち込んでいる読書記録によると、この "Holy Island" は、2000年の夏に Brian Forbes の "The Endless Game"(1986)というスパイ小説を読んで以来、なんと17年ぶりに、読む前からミステリだと認識して読んだミステリである。
 この17年間に読んだ数少ないミステリはどれも、読んでいるうちに、あ、これはミステリだったんだと気づいたものばかり。R.J. Ellory の "A Quiet Belief in Angels"(2007 ☆☆☆★★)や、Kate Atkinson の "When Will There Be Good News?"(2008 ☆☆☆☆)、それから Sarah Waters の諸作である。Waters の作品は、"The Night Watch"(2006 ☆☆☆☆)しか点数評価していない。
 ほかに去年のブッカー賞候補作、Ian McGuire の "The North Star"(☆☆☆★★)や Graeme Macrae Burnet の "His Bloody Project"(☆☆☆★)などもミステリにふくまれるかもしれないが、もうとっくに記憶が怪しい。
 まことにお粗末な読書歴だが、これでも2000年の夏まではミステリの大ファンだった。それゆえ、いよいよ定年が近づき、まだ定収入のあるうちに純文学だけでなく、未入手の名作・佳作ミステリも買いそろえておこうと思い立った。
 そこでアマゾンUKで検索してみると、ひと昔前とちがって、Margery Allingham や Ngaio Marsh など、黄金時代の推理作家の作品がペイパーバックで多数復刊されている。ふむふむ、これは老後、純文学を読むのがキツくなったときにちょうどいいぞ。
 さらに検索をつづけ、Allingham だったかの作品リストをながめていると、途中からなぜか LJ Ross という知らない作家のものが紛れこんできた。どうやら関連作品らしい。
 きっと、Allingham やミステリの女王 Agatha Christite のような謎解き主眼の本格推理小説なんだろうな。そこで LJ Ross のデビュー作を読んでみたというわけである。
 当てはずれ。謎解きのおもしろさは「適度」で、全体としても「軽く読み流せば時間つぶしにはもってこいかも」という水準。いまのところ邦訳が出ていないのもむべなるかな。
 ミステリなのでネタを割るのは差し控えるが、事件以外にいちばんガックリきたのは、主人公の Ryan 警部が助っ人の Anna と早く結びつきすぎること。美男美女のカップル誕生は世の習いだが、それにしても書き込み不足。もっとキャラクターを練り上げて欲しかった。まあ、ハーレクイン・ミステリといったところでしょうか。
 もっとも、これは純文学とミステリの差かもしれない。本書の前に読んだ Anita Brookner の "A Start in Life" との違いは歴然としている。あちらの場合、「事件はどれも各人物のキャラクターがもたらす当然の帰結」であるのに対し、この "Holy Island" ではまず事件が起こり、次いで、その事件と関連のある範囲で人物像が描かれる。その範囲外は添えもので、いきおい、Ryan や Anna の心理描写も「書き込み不足」。
 一方、ミステリ以外の要素が度を超すと、ミステリとしてはまとまりを欠くことになる。そのサジ加減が腕の見せどころですな。
(写真は、宇和島市妙典寺の裏側。小さい頃は、これが桜の木だとは知らなかった)