ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

George Saunders の “Lincoln in the Bardo”(1)

 ゆうべ、今年のブッカー賞受賞作 George Saunders の "Lincoln in the Bardo" を読了。メモを見ながらレビューを書いておこう。

Lincoln in the Bardo: WINNER OF THE MAN BOOKER PRIZE 2017

Lincoln in the Bardo: WINNER OF THE MAN BOOKER PRIZE 2017

[☆☆☆★★★] 実験的な、あまりに実験的なゴースト・ストーリーである。複数の話者の発言を引用しながらリレー方式で同じひとつのシークエンスを叙述。非日常的な口語や俗語、造語、破格構文などを駆使。意識の流れに近い技法や、はたまた「意識の途切れ」とでもいうような表現までも続出するありさまたるや、言語芸術としての文学、ここに極まれり。まさに爆発的な言葉の乱舞である。しかもその話者は大半が亡霊であり、数多くの亡霊たちが生者に憑依しては離脱、ハチャメチャな暴動を起こしたり、エロっぽいドタバタを演じたり、とにかく猥雑な一大狂騒劇を繰りひろげるのだから、マジックリアリズムの極北とも言える作品である。が、こうした超絶的な技巧のわりに、テーマとしては意外に底が浅い。肉親に先立たれた家族の悲しみ、死にゆく者の嘆き。これらはギリシア悲劇の時代から扱われてきた題材である。むろん本書の場合、南北戦争当時、リンカーンが幼い息子を病気で失ったという小さな史実から、これほど破天荒なドラマを仕上げた点は高く評価したい。生と死の中間領域を開拓しているところも画期的。しかしながら、要するに死とは悲惨なもの、というテーマしか見えてこないがゆえに「底が浅い」。こと南北戦争にかんする記述に絞っても、たとえばロバート・ペン・ウォーレンの名著『南北戦争の遺産』とは雲泥の差である。また一方、言語芸術としての文学における新しい実験を試みた先達の作品とくらべても大いに見劣りがする。「死とは悲惨なもの」というだけの認識からは、ジョイスの世界観、フォークナーの人間観に伍するような深いヴィジョンを読み取ることはできない。とすれば、「言葉の乱舞」にいかほどの意味があるのだろう。などなど減点材料は多々あるのだが、ひるがえって饒舌なナンセンスとは、ひとりジョージ・ソーンダーズのみならず、現代作家の通弊とも言える欠陥かもしれない。その意味で本書は、現代文学の極北を示した作品でもある。