ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alice Munro の “The Progress of Love”(2)

 Alice Munro を初めて読んだのは5年前、大変遅ればせながら2013年正月のことだった。それが現時点で最新作の "Dear Life"(2012)。いたく気に入り(☆☆☆☆)、10月には "Dance of the Happy Shades"(1968)を通読。完全にノックアウトされましたね(☆☆☆☆★)。
 するとなんと、Munro はその年にノーベル文学賞を受賞。これにはビックリした憶えがある。
 やがて翌年には "Lives of Girls and Women"(1971)を通読。これもよかった(☆☆☆☆)。だから当然、どんどん旧作を読みたくなるはずだったが、そうならないのがへそ曲がり。誰もが興味を示す作家はあとまわし、というポリシーが当時はあったような気がする。あ、いまも多少はありますな。
 おかげで定年を間近にひかえ、〈文学のお勉強シリーズ〉に取りかかる破目になってしまった。"The Progress of Love" を読みおえたいま、またしても遅かりし由良之助の心境である。
 ただ、正直言って、少々かったるい短編もありました。人間の複雑な心の動きをとことん見すえる観察眼は68年のデビュー当時から変わらないが、本書の場合、「とことん」と言うより、ぼくの好みでは、ちょっとくどすぎるのでは、と思えるフシもあったので☆☆☆★★★(約75点)。でもこれ、故・双葉十三郎氏の採点では『カサブランカ』と同点ですよ。
 永遠の一瞬に関するくだりを引用しておこう。Moments of kindness and reconciliation are worth having, even if the parting has to come sooner or later. I wonder if those moments aren't more valued, and deliberately gone after, in the setups some people like myself have now, than they were in those old marriages, where love and grudges could be growing underground, so confused and stubborn, it must have seemed they had forever.(pp.30-31) Why does Trudy now remember this moment? .... What are those times that stand out, clear patches in your life ― what do they have to do with it? They aren't exactly promises. Breathing spaces. Is that all?(273)
 なんだか牽強付会、我田引水もいいところだが、ぼくは本書の各話における中心場面を思い出したとき、うん、これはレビューに使えそうな文言だなと思った。月並みな感想だが、Alice Munro はふだんから、「人生の中で stand out する瞬間」に敏感な作家なのでしょうね。
(写真は宇和島市佛海寺。実家の菩提寺である)