ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Doris Lessing の “The Good Terrorist”(2)

 Doris Lessing はご存じノーベル賞作家(2007年受賞)。が、恥ずかしながら、ぼくはいままで短編すら読んだことがなかった。そこで今回、〈文学のお勉強シリーズ〉の一環で本書に取り組んだというわけだ。
 なにしろ1985年のブッカー賞最終候補作である。きっと代表作のひとつにちがいない。
 と思ったが、一抹の不安はあった。Wiki によると、いまだに邦訳は刊行されていないようだ。つまりこれは、今月初めに読んだ1974年のブッカー賞受賞作、Nadine Gordimer の "The Conservationist" と同じく、といってもぼくの推測にすぎないが、昔から「売れない」という判断がある本かもしれない。
 みごとに不安は的中。ぼくには、かったるい本でした。先週、いやもう先々週か、青森旅行の最中に読もうと思ったのだが、結局、カバンが重くなっただけ。最初の数ページで眠くなり、実質的に旅行から帰って読みはじめた。
 しかし最後まで退屈でしたね。〈文学のお勉強〉にもならなかった。テロリストの話かと思いきや、それはなんと終幕だけ。しかもそのテロ事件が、たしかに死傷者は出るものの、ちっともコワくない。「善良なテロリスト」のゆえんが良心の呵責を覚えるテロリストだから、というのも当たり前すぎておもしろくない。
 その善良な主人公 Alice はレーニンを読んだことがなく、マルクスも『共産党宣言』を読んだだけというコミュニスト。おそらく Lessing は本書で革命家たちの理論武装を故意に避けたのだろう。「狂信的でも何でもない反体制派の市民がテロリストになる」という設定からして当然である。
 がしかし、狂信的なテロリストのほうが現実はもちろん、小説的にもはるかに迫力があることは言うまでもない。Dostoevsky の "Demons"(☆☆☆☆★★)がいい例だ。しかもあの名作では、崇高な理想が狂信へと変わるプロセスまでえがかれている。だから勉強になるのである。
 この "The Good Terrorist" はたぶん Doris Lessing の代表作ではあるまい。ノーベル文学賞の受賞理由はほかの作品群にあるのだろう。ぼくは全2巻の "Collected Stories" しか持っていないが、当分あとまわしになりそうだ。
(写真は、先々週訪れた弘前城