ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ahdaf Soueif の “The Map of Love”(2)

 これは〈恥ずかしながら未読シリーズ〉なのか、それとも〈ジャケ買いシリーズ〉なのか。ともあれ、いつだったかブッカー賞の受賞作や候補作を検索しているうちにタイトルと表紙が目にとまり、さっそく入手したものの、以来積ん読。先日、「そうだ、長い本を読もう!」と思って書棚を見わたしたところ、またしてもタイトルが気になり読んでみることにした。
 前半は恋愛小説そのものだろう。「20世紀初頭、イギリス貴族の若い未亡人(Anna)がエジプト民族主義運動の青年指導者(Sharif)と恋に落ちる」。この拙文から想像できるシチュエーションの連続で、相当に面白い。
 話だけでなく、叙述形式に手の込んだ工夫がほどこされている点もいい。百年後、Anna の日記と書簡をひい孫の Isabel が入手。それを彼女のいとこ Amal が読んで感想や説明を加え、自身と Isabel の身に起こる事件と平行して百年前の恋の顛末を物語る。Amal の祖母 Layla は Sharif の妹ということで、Layla の日記も紹介される。このあたり、レビューではかなり大ざっぱにまとめています。若干訂正しました。
 1999年の作品なので、ひょっとしたら映画化されているかも、と思って調べてみたが発見できなかった。もし「見たよ」という方がいらっしゃったら教えてください。Sharif はもちろんオマー・シャリフが適役ですね。とくれば、Anna は、「うたかたの恋」でオマー・シャリフの相手役だったカトリーヌ・ドヌーヴかな。
 と、以上だけなら☆☆☆★★★。「著者は愛を信じている。と同時に宿命の影を見つめている。まさに国民作家の手になる歴史ロマンである」という点を考慮して、★をひとつ追加。この☆☆☆☆は、いいほうの中くらいってところでしょう。
 1999年のブッカー賞受賞作は、ご存じ J. M. Coetzee の "Disgrace"。「ブッカー賞? 何それ?」の時代に読んだので、「傷を癒して自然に生きる」の一口メモしか書き残していない。が、いい作品だったな、という読後感はなんとなく覚えている。その記憶だけで採点すると、☆☆☆☆。
 同年の最終候補作は Colm Toibin の "The Blackwater Lightship" も読んでいる(☆☆☆☆)。そっちのほうがぼく好みだが、ちょっとマイナーかな。さりとて、"The Map of Love" も結末がイマイチ。というわけで、ほかの候補作は未読ながら、"Disgrace" の受賞は順当な結果だったのではないでしょうか。
(写真は、先月の帰省中に一般公開されていた愛媛県宇和島市、伊達博物館所蔵のひな人形。山本一力の短編「そこに、すいかずら」に出てくるひな飾りは、同博物館の史料に基づいている)