ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ahmed Saadawi の “Frankenstein in Baghdad”(2)

 妙な言い方かもしれないが、老後の生活もやっと軌道に乗ってきた。ハローワークで失業保険の手続きを済ませ、フィットネスクラブに通って運動を開始。もっか、バタ足の練習をしているところ。
 何よりほぼ一日一本、映画を見られるようになったのが大きい。ぼくの趣味は読書・音楽鑑賞・映画鑑賞の3本立てだが、本を読みながら音楽を聴けば一石二鳥。宮仕えのときは、映画だけ毎日楽しむわけには行かなかった。
 どれもあまり金のかからない趣味ばかりだが、それでも年金生活となると、気楽に財布のひもをゆるめるわけには行かない。そう思い、少しでも気になる本はぜんぶ退職前に買い込んでおいた。
 が、新作をどうするか。これは年金生活者にとっては大きな問題かもしれない。日本のものなら図書館を利用する手もあるが、最新の洋書をそろえている図書館はどこにもないでしょう。
 おまけに、そもそも古典を読むべきか、新作を読むべきか。ぼくのように長年、勉強をサボってきた人間にとっては悩ましい問題である。積ん読の山の中には、"Ulysees" や "Remembrance of Things Past" のように、ヒマラヤの高峰にも比すべき大山塊もある。"David Copperfield" でさえ、ぼくは中学時代に邦訳で読んだきりなのだ。
 とりあえず〈文学のお勉強シリーズ〉、〈恥ずかしながら未読シリーズ〉、〈ジャケ買いシリーズ〉と、3つのルートから山頂ならぬ1合目あたりを目指すことにしたのだが、新作はまたべつの山。はて、どうしたものか。
 などと考えながら、今年のブッカー国際賞最終候補作のリストをながめているうちに、"Frankenstein in Baghdad" というタイトルが目についた。調べてみると、現地ファンのあいだでは3番人気らしい。本命は、"The Vegetarian"(☆☆☆★★★)で有名な Han Kang の "The White Book" のようだが、ヘソ曲がりのぼくは未知の作家のほうが気になる。
 というわけで読んでみた。よく出来ているし、けっこう面白い。その根拠となる美点についてはレビューで書いたとおりだ。が、こんなくだりに出くわすと、これ、もっと掘り下げてほしかったなと思う。He told her it would be about the evil we all have inside us, how it resides deep within us, even when we want to put an end to it in the outside world, because we are all criminals to some extent, and the darkness inside us is the blackest variety known to man. He said we have all been helping to create the evil creature that is now killing us off.(p.227)
 he も she も脇役なので詳細はカット。it は映画のシナリオである。とにかく、この the evil creature が本書の Frankenstein であればいいのだが、前後の文脈は明らかにそうなっていない。しかも、この話の続きもない。中途半端もいいところだ。
 というのがぼくの解釈です。だから、本書は「よく出来ているし、けっこう面白い」のだけれど、要するに「イラクだより」。時事問題に引っかけて言えば「イラク日報」。それを「オカルト的な寓話小説」に仕立てているところが秀逸だが、ツッコミが浅い。ゆえに☆☆☆★★。★はひとつオマケしてもいい。
 しかし、上の一節を書き写しているうちに、いや、本書のテーマは、こういう根源的な悪の問題かもしれないぞ、という気もしてきた。もしこの解釈が正しいならレビューを書き直さないといけないし、☆☆☆☆を進呈してもいい。どうでしょうか。
(写真は、先月の帰省中に訪れた四国八十八ヵ所霊場、第41番札所、龍光寺)