ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kamila Shamsie の “Home Fire”(1)

 今年の女性小説賞(前ベイリーズ賞、旧オレンジ賞)受賞作、Kamila Shamsie の "Home Fire"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

Home Fire: WINNER OF THE WOMEN'S PRIZE FOR FICTION 2018 (High/Low)

Home Fire: WINNER OF THE WOMEN'S PRIZE FOR FICTION 2018 (High/Low)

  • 作者:Shamsie, Kamila
  • 発売日: 2018/03/22
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★] イギリスの移民問題イスラム国とテロの脅威という最新の衣装をまとった現代版「ロミオとジュリエット」。古典劇の世界では対立構造が単純明快なだけに、あの悲恋にもストレートに胸を打たれる。が、本書で衝突するのは、まずイギリスのイスラム系移民同士。市民社会における地位の確保か、それともジハードか。万一ジハードの戦士を輩出した場合、のこされた家族はどう対応すべきなのか。その意見の相違が親子や兄弟姉妹などの確執へと発展。こうした複雑な政治的・宗教的、さらには文化的背景のもとに登場するのが現代のロミオとジュリエットというわけで、ふたりの恋の行く末よりも、途中の「家族間の炎上」のほうに多くの紙幅が割かれ、イスラム国の恐るべき実態もふくめ、リアリティーがあって面白い。家族同士、相反する立場のどちらも正しく思え、いわば矛盾に引き裂かれたまま生活せざるを得ない移民たちの厳しい現実が浮き彫りになっている。その矛盾とテロの象徴が結末の「炎」と言えるかもしれない。シェイクスピア劇は敵対する両家の和解で幕を閉じるが、本書の悲恋は和解に結びつくべくもない。炎が照らす現代の闇は深い。