ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kamila Shamsie の “Home Fire”(2)

 きのうも大雨関連のニュースを見ていたら、愛媛県宇和島市からの中継があった。吉田町では断水が続き、ミカン栽培も大打撃を受けているらしい。
 また宇和島市西予市に住む親戚、友人たちの話によると、吉田町は陸の孤島と化している。国道は寸断され、JRが復旧するのも2ヵ月先くらいだとか。これほどの大雨になるとは誰も予想していなかったようだ。
 さて本題。この "Home Fire" では「イスラム国の恐るべき実態」も描かれているが、それは上のような天変地異と違って、いわば想定内。すごいなあ、と一瞬思うことはあっても、何かで見たニュース映像のほうがずっと恐ろしい。
 イスラム国にかぎらず、戦争や紛争の話となると、活字はどうしても映像に負けてしまう部分がある。が、映像ではなかなか伝えきれない要素もあって、たとえば極限状況で露呈する人間の複雑な心の動きなどは活字のほうが臨場感を得やすい。
 その点、本書はまずまず合格。しかし、さらにすぐれた作品となると、「人々が欲望のおもむくままに行動する姿を冷徹なまでに暴き出している。しかも、戦争が人間を野獣に駆り立てるといった図式的な見方を排し、『戦争で別人になるかどうかは本人の問題』と指摘。これは人間性への鋭い洞察と同時に、実は深い信頼を示した言葉でもある」。
 ビアフラ戦争を扱った2007年のオレンジ賞受賞作、Chimamanda Ngozi Adichie の "Half of a Yellow Sun"(2006 ☆☆☆☆★)を評したぼくのレビューの一節だが、同賞の流れを汲む Women's Prize for Fiction の今年の受賞作 "Home Fire" の場合、残念ながら、目からウロコが落ちるような「人間性への鋭い洞察」は認められかった。
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 とはいえ、タイトルからうかがえるテーマ「家族間の炎上」のほうはけっこう読み甲斐がある。イギリスの移民問題といえば、小説の題材としてはもはや定番かもしれないが、「市民社会における地位の確保か、それともジハードか。万一ジハードの戦士を輩出した場合、のこされた家族はどう対応すべきなのか」といった、イスラム系移民の家族における立場の相違に的を絞った作品は、少なくともぼくは初めてお目にかかるものだった。
 そこにあの『ロミオとジュリエット』の古典的な抗争劇を読み取れるところが、ぼくにはいちばん興味ぶかかった。「結末の炎」はそれなりに感動的なのですけどね。
(写真は、愛媛県宇和島市吉田町のミカン畑。2年前の夏、バスの車内から撮影)