今年のブッカー賞候補作、Guy Gunaratne の "In Our Mad and Furious City"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)
[☆☆☆★★★] ビートの効いたリズミカル、エネルギッシュな文体にまず惹かれた。実際ラップに夢中の少年も登場するなど、これはロンドンの移民街が主な舞台の2世代にわたる青春群像劇である。むろん恋や友情、さらには音楽、サッカーといった定番の話題もあるが、なんと言っても特筆すべきはタイトルどおり、彼らがいずれも「狂気と怒り」の渦に巻き込まれる点だろう。
ベルファストの
IRAと
プロテスタント系住民、ロンドンのカリブ系黒人と治安当局、
イスラム系住民と移民排斥を求める白人グループ。どの衝突にも山場があり、とりわけ最後の対決、畳みかけるようなカットバックで複数の視点から描いた流血の大混乱がすさまじい。まさしく怒りと怒り、狂気と狂気の激突である。その巻き添えになるのが純粋な少年たちで、彼らの親の青春時代もふくめ、若者特有の素朴な正義感と、暴走する政治的
イデオロギーや宗教感情とを対比させるのが本書の当初からの図式。
フランス革命や
ロシア革命など、近現代における理想主義の栄光と悲惨の歴史を振り返れば、この図式に青年作家らしい甘さがあるのは一目瞭然だが、
移民問題で揺れるイギリスの現状においては、若者こそ希望を持たなければなるまいと推察する。ゆえにこの鮮烈なデビュー作は、まさに今日のイギリスそのものと言える作品である。