ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sigrid Nunez の “The Friend”(1)

 昨年の全米図書賞受賞作、Sigrid Nunez の "The Friend"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(ペイパーバック版の表紙はきょう現在、アップ不可能。可能になり次第アップします)。 

The Friend: A Novel

The Friend: A Novel

 

[☆☆☆★★★] 親友が自殺したとき、あるいは死を迎えようとしているとき、あとにのこった自分はなにを思い、どう行動するのだろうか。この個人的な問題が本書では文学論にまで発展する。なぜ、なにを、いかに書くのか。それは結局、人生いかに生きるべきかという問いでもあり、そこで最初の疑問に戻る。本書は、そういう文学と人生にかんする自問自答を短い連作スケッチふうにまとめ、ユーモアと情感をこめてフィクション化した作品である。一部メタフィクションに近づく箇所もあるなど、技巧的にもすぐれている。タイトルとちがって複数の友人が登場。主役は、ひとりと一匹。中年の女流作家が若いころから指導を受けてきた親友の作家が自殺。彼女は悲嘆にくれ、執筆にも大学での創作指導にも支障をきたす一方、親友の愛犬だった高齢のグレートデンを引きとり、マンションの規約に反して飼うことに。生前の親友との交流が去来するなか、リルケヴァージニア・ウルフクッツェーなどの著作を引用しながら、文学、自殺、そして動物とのふれあいについて思いをめぐらせる。親友に先だたれた悲しみと、死期の近い老犬におぼえる愛着。ひとつまちがえれば感傷過多で平凡なヒーリング小説になるところ、作者は必然性のある文学論を展開し、テーマに直結した興味ぶかい逸話を多数紹介することで感情を抑制。その抑制からふとこぼれ出る友人たち、亡き作家と犬への愛情に胸を打たれる。知的かつハートウォーミングな佳篇である。