ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2019年ピューリツァー賞発表

 アメリカ東部時間で4月15日午後3時、今年のピューリツァー賞(本ブログではいままで「ピューリッツァー賞」と表記していましたが、今回から『ロングマン英和辞典』の表記に改めました)が発表され、小説部門では、Richard Powers の "The Overstory"(2018 ☆☆☆★★★)が受賞。
 周知のとおり、これは昨年のブッカー賞最終候補作でもある。ぼくは同賞の発表前、本命と予想していたものの、あえなく落選。こんどのピューリツァー賞レースでは、今月2日の記事に書いたとおり、対抗に推していたのだけど、結果は大健闘でした。以下、昨年7月21日に公開したレビューを再録しておきます。 

The Overstory: Shortlisted for the Man Booker Prize 2018 (English Edition)

The Overstory: Shortlisted for the Man Booker Prize 2018 (English Edition)

 

 [☆☆☆★★★] エコロジーは地球規模の問題であり、また政治や経済、社会、文化などにかかわる複雑な問題でもある。それゆえ、そのスケールと複雑さを忠実に反映した小説は容易には書けないかもしれない。本書は、この創作課題に鬼才パワーズが果敢に挑んでかなり成功した、テーマ的にも構造的にも〈樹木小説〉としか言いようがない力作である。まず、何らかのかたちで樹木と縁のある8人の人物がそれぞれ別個に〈根〉を形成。ヴェトナム戦争中、墜落機から大木の上に落下して命びろいするパイロットの話が面白い。ついで8本の根がひとつの幹となるが、正確にはまだ4本の幹。中でも、森林の伐採をめぐる攻防、巨木の上で1年間もつづく籠城、製材会社や営林施設への放火と、次第にエスカレートしていくアクション小説篇がサスペンスに満ちて秀逸。圧巻である。ただし善玉・悪玉の色分けがはっきりしているため、複雑なエコロジー問題を「忠実に反映した」ものとは言いがたく、また人間ドラマとしても味が薄い。その後やがて4本の幹はひとつの樹冠へと成長。放火事件をめぐり「理想主義の栄光と悲惨」という重大な問題が軽く提示されたのち、樹木と人間が共通の祖先から生まれた同じ生態系の一員であるとの認識が前面に押し出され、地球規模の生態系が壮大なゲームソフトのかたちで紹介される。まさに本書の理論的中枢をなす部分であり、第一部からふくめて樹木にかんする逸話や情報満載。たしかに興味ぶかいのだが、山場らしい山場もなく深い感動は得られない。環境問題に対する個人の立場として、ソローの市民的不服従も示されるが情緒的な扱い。結局、作者としては、生態系を守るために何をすべきなのか、何ができるのか、読者の心に問題意識という種をまきたかったのかもしれない。樹木も人間だ、という声が聞こえてくるようなエコロジー小説である。

 Richard Powers 自身、ピューリツァー賞レースに参加したのは、2007年の最終候補作 "The Echo Maker"(未読)以来のことだろう。同書はご存じのとおり、2006年の全米図書賞受賞作でもある。 

The Echo Maker

The Echo Maker

 

 一方、受賞作と同時に発表された最終候補作のひとつは、ぼくが本命視していた Tommy Orange の "There There"(2018 ☆☆☆☆)。 

 もうひとつの最終候補作は、Rebecca Makkai の "The Great Believers"(2018)だったが、ぼくの評価は☆☆☆。泡沫候補扱いでした。 

 以上の結果、ぼくの予想は予想どおり、いい加減なものだったことが判明。お粗末さまでした。