今年のブッカー賞最終候補作、Margaret Atwood の "The Testamantes"(2019)を読了。ご存じ "The Handmaid's Tale"(1985 ☆☆☆☆)の続編である。さっそくレビューを書いておこう。

The Testaments: The Sequel to The Handmaid’s Tale
- 作者: Margaret Atwood
- 出版社/メーカー: Chatto & Windus
- 発売日: 2019/09/10
- メディア: ハードカバー
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[☆☆☆★★] 今さら言うまでもく、ディストピアは19世紀にドストエフスキーが理論的・思想的に予言。その予言どおり20世紀に全体主義国家が出現したあと、さらにオーウェルが当時の状況を踏まえつつ、21世紀の世界を先取りするかのように恐怖のディストピアを構築。こうした文学史の流れにあって、アトウッドの旧作『侍女の物語』はマイルストーン的な秀作であったが、本書は新たな一ページを刻むほどの出来ではない。〈謝辞〉にあるとおり、全体主義の崩壊過程を描いたものにすぎない。その過程もスパイ小説、陰謀小説でおなじみのサスペンスに満ちているのの、アンブラーやル・カレほどの水準ではなく、主役たちはもっともっと危険な目に遭うべきだった。体制のほころびがテーマのせいか、息苦しい閉塞感という点でも物足りない。残忍な処刑シーンにしても望遠レンズで眺めているような書き方である。そもそも、高い理想を掲げた人間がどうして狂信に走るのか、という根本的な問題が素通りされている。狂信のもたらす恐怖が現象的に描かれているだけで、しかも上のようにそれほど怖くない。事実は小説よりも奇なりと言うが、奇妙でもなんでもなく、今日の世界に現実に存在する全体主義、その予兆のほうがはるかに恐ろしい。その恐怖が本書にほとんど反映されていない点がいちばん不満。とはいえ、この先、フェミニズムと反フェミニズムの対立が先鋭化するともかぎらないし、アメリカ合衆国が崩壊して全体主義国家が誕生するという悲劇を予感している人たちには(そんな人がもしいればの話だが)、本書はじゅうぶん予言的な作品と言えるもしれない。ともあれ、やはり〈謝辞〉によれば、これは老作家が旧作を読んだファンの要望に応えて綴った後日談である。そのサービス精神に敬意を表したい。