ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julia Phillips の “Disappearing Earth”(1)

 今年の全米図書賞最終候補作、Julia Phillips の "Disappearing Earth"(2019)を読了。彼女はブルックリン在住の新人作家で、本書はデビュー作。さっそくレビューを書いておこう。 

DISAPPEARING EARTH

DISAPPEARING EARTH

 

[☆☆☆★★] あえて撞着語法でいうと、真実が明らかになるのは、よかれあしかれ、よいことだ。真実を知ったとき、まもなく知るとわかったとき、ひとは異様な昂奮をおぼえ、それまでの不安や焦燥が沸点に達すると同時に昇華され、極論すれば新しい自分に生まれ変わる。都合のわるい真実であっても、新生そのものはいいことだ。本書はそんな〈真実の瞬間〉を鮮やかにとらえた13の物語である。舞台はカムチャツカ半島のペトロパブロフスクと近辺の町。八月、幼い姉妹の誘拐事件から幕をあけるがミステリではない。月を追うごとに事件はうわさ話となり、事件と、あるいはお互いに多少なりとも関係のある女性たちが交代で主役をつとめる。家族や友人、恋人との関係、健康問題などで悩みをかかえ、決断を迫られる。12月、姉妹の母が信頼していた人間に裏切られ、二度と帰らぬ幸福な日々を思い出す瞬間は、たまらなく切ない。翌年の六月、事件は急展開。その結末がどうであれ、再生への道に踏みだす一瞬は光り輝いている。先住民と白人の対立、旧ソ連への郷愁と現状への不満などを背景に、寒冷の地で苦しみながら懸命に生きる女性たちはなにを知り、どんな道を選ぶのだろうか。