ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Country Girls Trilogy” 雑感

 このところ、Edna O'Brien の "The Country Girls Trilogy" をぼちぼち読んでいる。例によって、いつ、どんないきさつで入手したかは不明。前回まで扱った "The Balkan Trilogy" 同様、『新潮世界文学辞典』の年表には載っていない。が、こんどは作者にも題名にも聞き憶えがあった。取り組んだきっかけは、Wolf Hall Trilogy に始まる trilogy つながりである。
 第1巻 "The Country Girls" は1960年刊。第2巻 "The Lonely Girl" は1962年刊。第3巻 "Girls in Their Married Bliss" は1964年刊。Epilogue つきの合冊本が初めて出たのは1987年。分冊も合冊も "The Balkan Trilogy" と同時代の作品ということになる。
 もちろん初読の作家なので上の辞典を調べてみた。「アイルランドの女流作家。カトリック教徒の家に生まれ、若い頃は厳しい宗教教育を受けたが、五二年に結婚後ロンドンに転居した」。「アイルランド女性の性と孤独を描き、故国ではその本が禁書となった」。
 ほう、禁書ですか。意外な気もするが、当時としては無理もあるまい、とも思う。全巻を通じて不倫話が出てくるからだ。
 禁書が一面、意外というのは、不倫といってもプラトニックな場合が大半で、なんだそれくらい、と現代人としては茶化したくなる。けれど、あちらの掟はとにかく厳しいことで有名で、汝姦淫するなかれ、の姦淫には心のなかの邪念もふくまれる。配偶者のある身で、夫や妻以外の異性を見て、あれはいい男、いい女だな、と思っただけでアウト。それが20世紀中葉のアイルランドでは社会的通念だったわけだ。
 その通念に照らすと、ええい、じれったい、と現代人なら思うところが、じつは掟やぶりのヤバイ場面であり、Edna O'Brien 女史、ちとススみすぎでっせ、と批判を浴びたのだろう。
 ぼくの評価は第1巻が☆☆☆★。第2巻が起伏に富んで面白く、☆☆☆★★★。いま読んでいる第3巻は☆☆☆★★くらい。山場はまだ先のようだ。

(写真は永平寺。2月に撮影)

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