ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Edna O'Brien の “The Country Girls Trilogy”(1)

 数日前、Edna O'Brien の "The Country Girls Trilogy" を読了。第1巻 "The Country Girls"(1960)、第2巻 "The Lonely Girl"(1962)、および第3巻 "Girls in Their Married Bliss"(1964)の合冊版(1987)である。 合冊の際、エピローグが補足されている。読後から時間がたってしまったが、なんとかレビューをでっち上げておこう。

 

Country Girls: Three Novels and an Epilogue (FSG Classics)

Country Girls: Three Novels and an Epilogue (FSG Classics)

  • 作者:O'Brien, Edna
  • 発売日: 2017/11/14
  • メディア: ペーパーバック
 

 [☆☆☆★★] 刊行当時、オブライエンの故国アイルランドでは禁書扱いだったらしい。たしかに第三巻など、当時としては過激と思われる性描写や卑語も散見される。が、厳格な宗教的風土でもっぱら禁忌に触れたのは、全巻を通じて綴られる「不純異性交遊録」、および不倫話だったのではないか。そのうち、主人公ケイトの親友で自由奔放なバーバーの火遊びより、純情可憐なケイトの犯す不倫を中心にすえているところが本書のミソ。ケイトは第一巻で年上の妻帯者に熱を上げ、第二巻でべつの妻子ある男性と一線を超え、第三巻でその男性と結婚後、ほかの男に夢中になる。その恋愛歴からし恋多き女のようだが、どの恋でも彼女は真剣そのもの、心から相手を愛している。いくら経験を積んでも純粋無垢な気持ちには変わりない。こうした「無垢と経験」、あるいは「精神的不倫」は、心中の姦淫をも戒めるキリスト教文化ならではの物語であり、その意味でエドナ・オブライエンは、本書の発禁処分とは裏腹に、じつはすこぶる宗教的な作家だったといえるかもしれない。第三巻およびエピローグでバーバーが主役となる場面もあるが、彼女は純情をつらぬいたケイトに脱帽している。経験という立場からの無垢への称賛である。しかしケイトの恋は、精神的にはついに実らない。実らぬ恋でもなにかがのこり、ひとは変化する、というメッセージでおわる第二巻が起伏に富んでおもしろく、出色の出来である。