ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Edwidge Danticat の “The Dew Breaker”(1)

 Edwidge Danticat の "The Dew Breaker" を読了。2004年の全米批評家協会賞最終候補作、および2005年のペン/フォークナー賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。 

The Dew Breaker (Vintage Contemporaries)

The Dew Breaker (Vintage Contemporaries)

 

[☆☆☆☆] 真実は必ずしもひとを幸福にしない。それどころか、かえって不幸にすることさえある。そのとき愛情は真実の試練に耐えうるのか。恐ろしい真実を愛ゆえに赦すことはできるのか。そもそもそれは愛だったのか。幕切れのこの問いが、胸にずしりとひびいてくる。主な舞台はニューヨークと、ハイチの首都ポルトープランス。最初は短編集、それも連作短編かと思った。親子や夫婦の絆、断ちがたい過去の影などをめぐる、しみじみとしたエピソードがつづく。やがて主役と脇役が交代し、それぞれ再登場。あるいは新顔が主人公となるうち、デュヴァリエ独裁政権とその崩壊という激動のハイチ現代史を背景に、歴史に翻弄された人びとの悲しい運命が浮かびあがる。運命の赤い糸に気づいた男が、なぜひとにはひとを殺す力があるのか、と自問する第五話が感動的。少年が政変をきっかけに出生の秘密を知り、親の立場のちがいゆえに親友と別れざるをえなかった第七話にも泣かされる。そして迎えた最終話。殺す者と殺される者、その近親者という三人の目と心を通じて緊迫した事件が描かれ、大いにサスペンスが盛りあがったのち、家族の深い絆と永遠の心の傷という光と影のもと、上述のように人生の苦い真実にかんする難問が提示される。おわってみれば連作短編集にして、かつ、れっきとした長編。傑作である。