ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Bone Clocks" 雑感

 このところの急な冷え込みのせいか、ついに風邪をひいてしまった。症状から判断して、たぶんコロナではないと思うけれど、ぼくは微熱でもすぐに頭が痛くなるほうなので万事かったるい。
 おかげで、ボチボチ読んでいた David Mitchell の "The Bone Clocks"(2014)も、さらにペースダウン。あともう少しなのだけど、その少しがしんどい。
 そこできょうは、いままでの流れをちょっと振り返ってみよう。まず、これは周知のとおり2014年のブッカー賞一次候補作である。刊行当時、ぼくは諸般の事情で本ブログを休止していたのだが、それでも本書が大変な評判になっていることは知っていた。
 そこでたしか同年末か、年が明けて入手したところ、届いた本をひと目見ただけで戦意喪失。やけに分厚かったからである。以来積ん読中だったが、たまたま先月読んだ "Number9Dream"(2001)がとても面白かったので(☆☆☆☆)、やっと取り組むことにした。
 いざ読みはじめると、さすがに "Number9Dream" ほどではないけれど、最初はかなり面白かった。Mitchell のものらしくフシギな事件が相次いで起こり、この先いったいどうなるのだろうと期待がもてた。
 ところが、やがてその「フシギな事件」のフシギさぶりが気になってきた。これはどうも、予想していた純文学路線ではなく、エンタメ系のノリではないだろうか。Mitchell の旧作で言えば、"Slade House"(2015 ☆☆☆★★★)に近いけれど、あれとも少しちがうような。はて。
 そこでやおらネットで検索すると、本書は2015年の世界幻想文学大賞受賞作とのこと。いやはや、まったく知りませんでした。周回遅れもいいところですな。
 それにしても、ぼくはつい先日、「Mitchell はミステリなりSFなり、手すさびに大衆娯楽小説を書いても、きっと大傑作をものすることができるのでは」と述べたばかり。昔もどこかでおなじ趣旨の発言をしたおぼえがある。知らぬが仏というわけだ。
 なにはともあれ、本書はどうやら「純文学路線ではなく、エンタメ系」のようである。読めば読むほどそう思えるのだが、そのことをはっきり物語るくだりがここだ。'The Anchorites are abominable. They are vermin.' / 'Their attack persuaded me to help Horology,' says Holly. / 'Good,' says Sadaqat. 'Absolutely. It is black and white.'(p.484)
 もちろん、「純文学だの娯楽小説だの、そんなジャンル分けは無意味。小説には、面白いものと、面白くないものしかない」という立場のひともいることは知っている。ぼくも昔はそう思っていた、思おうとしていた時期がある。
 が、いまはちがう。上のような分類には、両者の特性を知るうえで意味があると思っている。その相違がわかれば、自分の好みもわかる。つまり、自分を知るきっかけになるからだ。
 で、両者をかなり図式的に区別すると、エンタメ系は上のように「黒と白」の世界。純文学にも黒と白はあるが、その黒が白になったり白が黒になったり、混ざりあって灰色になったりする。この現象はむろんエンタメ系にもあり、それが文学的な味わいを生む。が、基本はあくまで黒と白。
 もとより、これだけで十分な目安とは言えないが、少なくとも目安のひとつにはなるはずだ。
 などと、あだしごとを考えながら読んでいると、ますますペースダウン。この "The Bone Clocks"、いまのところエンタメ系のようだけど、最後はどうなるんだろう。

(下は、上の記事を書きながら聴いていたCD) 

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番~第32番

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