ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tsitsi Dangarembga の “This Mournable Body”(1)

 予定より大幅に遅れてしまったが、なんとか Tsitsi Dangarembga の "This Mournable Body"(2018)を読みおえた。今年のブッカー賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。 

This Mournable Body: SHORTLISTED FOR THE BOOKER PRIZE 2020

This Mournable Body: SHORTLISTED FOR THE BOOKER PRIZE 2020

 

 [☆☆☆] ジンバブエ版「大学は出たけれど」。ただし、小津映画のようにコミカルなおもしろさはなく、アンチヒロインが挫折につぐ挫折を重ね、八方ふさがりとなりながらも懸命に生きる姿を描いた作品である。主人公タンブジャイは学歴も職歴も華やかだが、じつのところ才女ではなく、飛びぬけた美人でもなく、いまや中年にさしかかっている。もちろん独身。そんなダメ女が玉の輿を、安定した収入を、企画の成功を夢見て悪戦苦闘。メンタルが弱く、嫉妬、自己憐憫、エゴイズムなど、およそ短所だらけの自分を正直に見つめる点だけが取り柄といってもいいが、そのダメぶりこそ共感を呼ぶところかもしれない。ひとは脆弱な存在であり、絶望と不安にかられやすいものだからだ。身につまされる読者も多かろうと察する。が、カタルシスまで得られないのが難点。またタンブジャイのかずかずの挫折を通じて、独立戦争の傷跡や貧困、古い因習、独立後も白人優位の社会でありつづけるジンバブエの現状など負の要素が鮮明に浮上。アンチヒーロー、アンチヒロイン小説ならではの特長だが、いっそ軽いコメディ仕立てのほうがより効果的だったのでは、という気がする。パンチ不足の水準作である。