ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Colson Whitehead の “The Nickel Boys”(1)

 さる7日、某大手通販会社からのメールに驚いたひともけっこういるのではないか。今年のブッカー賞最終候補作のひとつ、"Real Life" のペイパーバック版が今月初めに日本でも発売され、7日までに到着という運びになっていた。ところが同日、なんの理由説明もないまま、商品未発送の通知。到着日はわかりしだい知らせるとのこと。同書のページを確認すると、なんと別版が表示されていた。
 こうした通知には以前にも煮え湯を飲まされたことがあり、ぼくは翌日キャンセル。上の別版は発送まで数日かかるようなので、7日に届くはずだったほうをイギリスに priority 便で注文。5000円近くかかったが、受賞作が発表される19日までに到着するかどうかは怪しい。
 ここで上の某社をなぜ固有名詞で書かないか。明示すると、こんな泡沫ブログでも悪質な誹謗中傷サイトとして登録されてしまう恐れがあるからだ。これについても以前、ぼくはイヤな思いをしたことがある。だから、なるべくなら同社を利用したくないのだけど、ふだんは問題がないし、本ブログで商品をいろいろ紹介している関係もあり、まあ仕方ない。
 と、そんなわけで場つなぎに取りかかったのが、今年のピューリツァー賞受賞作、Colson Whitehead の "The Nickel Boys"(2019)。しかしこれもきょう読みおえてしまった。さっそくレビューを書いておこう。 

[☆☆☆★★] エピローグで明かされる事件の真相にびっくりした。本編の記述の意味をほぼ一変させるものだったからである。人間は困難に耐える力を有し、社会悪や不正義を糺して徐々に進歩することができる。曲がりなりにもそんな明るい結末が待っているものと思いきや一転、安直で楽観的な理想主義への懐疑が表明される。それまでにもむろん、人間の残虐性についての指摘など伏線は張られているのだが、文脈上伏線とは思えなかった。このトリッキーな設定で文学的な深みが増していることはいうまでもない。主な舞台は1960年代、フロリダ州の州都タラハシー近郊にある少年院。善良で勤勉な黒人少年エルウッドが冤罪で収容され、差別やひどい虐待をうける。その惨状たるや信じがたいほどだが、少年や教官たちの性格描写ともどもリアリティがある。院内ボクシング大会のような中間エピソードの扱いもうまい。エルウッドはキング牧師に心酔する理想主義者で、愛の力と人間の尊厳を信じようとするのだが、その理想を打ち砕くのが少年院そのものではなく懐疑主義であり、理想と現実という永遠の対立を従来のような直接対決ではなく、トリックを駆使して変則的に表現している点が新味。が、この工夫により、懐疑主義のほうがかえって不鮮明になったきらいもある。人種差別をテーマに斬新な小説を書くことのむずかしさが伝わってくるようだ。