ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tsitsi Dangarembga の “This Mournable Body”(2)と今年のブッカー賞予想

 いよいよブッカー賞の発表が迫ってきた(ロンドン時間19日)。ぼくは最終候補作全6作のうち、表題作もふくめ、なんとか5作読了。あと1冊、Diane Cook の "The New Wilderness"(2020)を読み残しているが、これは現地ファンの下馬評ではいちばん人気薄。もし同書が栄冠に輝いたら、大番狂わせということになる。
 なにはともあれ、これで3回目だが、やはり現地ファンふうに候補作を格付けしておくと、
1. Shuggie Bain
2. The Shadow King
3. Burnt Sugar
4. Real Life
5. This Mournable Body
6.
 というわけで、ぼくの予想としては、"Shuggie Bain" が本命。対抗は "The Shadow King"。大穴として "Real Life"。まったくパクリもいいところだが、実際に読んでみた結果なので、今回の下馬評はまず順当というしかない。
 点数評価としては1~3が同点で(☆☆☆★★★)、4は☆☆☆★★。"Shuggie Bain" が頭ひとつぬけているような印象もうけるけれど、文学史にのこる名作というほどではなく、4作に歴然とした差があるわけでもない。
 一方、表題作は☆☆☆。あらためてレビューや読書メモを読み返しても、やはり「パンチ不足の水準作」という気がする。アンチヒロインである Tambudzai のダメ女ぶりに共感をおぼえる読者もいるのでは、とか、彼女の挫折を通じてジンバブエの現状が浮かびあがるところがアンチヒロイン小説らしい、とレビューでは美点をひろってみたけれど、それらがはたして受賞の決め手になるかどうかは疑問。 

 レビューでふれなかった点を補足しておくと、まず、本書は二人称スタイルで書かれている。つまり主人公 Tambudzai を you と呼びながら話が進む。これについては、「読みにくい」という現地ファンの声も多いようだが、ぼくにはそもそもこの工夫の必然性がピンとこなかった。しいていえば、Tambudzai の混乱ぶりを客観視し、ユーモアを添える意図があるのかもしれないが、それなら三人称でもじゅうぶん可能。そのうえで、「いっそ軽いコメディ仕立てのほうがより効果的だったのでは、という気がする」。
 それから、本書は3部作の第3作ということらしい。第1作は "Nervous Condition"(1988)、第2作は "The Book of Not"(2006)となっているが、いずれも未読。"This Mournable Body" は2018年刊なので、それぞれずいぶん時間差のある3部作である。この新作は満を持して世に問うたものかもしれないが、もし番狂わせで受賞したとしても、旧作を catch up したくなるかどうかは疑わしい。
 なお、ジンバブエ出身の作家の作品を読むのは今回が初めてかと思ったら、なんと3人目だった。前の2作を紹介しておこう。1は2009年のガーディアン新人賞受賞作、2は2013年のブッカー賞最終候補作。1は短編集で、「〈ホテル・カリファルニア〉でコンドームを盗まれる笑い話」、'Midnight at the Hotel California' がケッサクである。

1. Petina Gappah "An Elegy for Easterly"(2009 ☆☆☆★★★) 

2. NoViolet Bulawayo "We Need New Names"(2013 ☆☆☆★★) 

(下は、上の記事を書きながら聴いていたCD) 

Bach J S: Orchestral Works

Bach J S: Orchestral Works

  • 発売日: 2008/04/16
  • メディア: CD