本日早朝(ロンドン時間19日)、ブッカー賞の受賞作が発表され、現地ファンの下馬評どおり、Douglas Stuart の "Shuggie Bain"(2020)が栄冠に輝いた。ぼくもいちおう本命に推していた作品なので、この結果に不満はない。
受賞理由は未読だが、どのエピソードもよく書けていて面白く、その意味で無駄がない、という点で頭ひとつぬけていたように思う。脇役や端役同士の会話にしても気が利いているし、それぞれの性格がくっきり浮かびあがってくる。こうした細部への目くばりが小説としての厚みを増し、読みがいのある作品に仕上がっているわけだ。
ただし、前回の直前予想でも述べたように、文学史にのこる名作というほどではない。主人公 Shuggie Bain 少年の特異性に発する、「そこまでやるか」という面白さが際立つものの、母親のほうはほぼ定型。ふたりの「対決」から胸を打たれるような深い感動まで得られるかどうかは疑問だ。
本書にかぎらず、ぼくの読んだ今年の最終候補作は、いわゆる社会的弱者を扱ったものが多かったように思う。認知症患者、アル中患者、被侵略者、ゲイ、白人優位社会の黒人、女性(なんですって、女は強いのよ、と目くじらを立てないでください)。この傾向がほかの文学賞にもあるのかどうか、もしあるとして、それがなにを意味するのか、ときどき考えてみることにしよう。
なお、"Shuggie Bain" は今年の全米図書賞の最終候補作でもあり、史上初のダブル受賞かと期待されていたが、同賞のほうは Charles Yu の "Interior Chinatown"(2020)が受賞。Douglas Stuart は現在ニューヨーク在住だが、彼の出身地とおなじく "Shuggie Bain" の舞台はグラスゴー。アメリカ・ファーストという点で引っかかったのかもしれない。
最後に、ぼくのランキング順に、受賞作をふくむ最終候補作を紹介しておこう。
1.Shuggie Bain(Douglas Stuart)
2.The Shadow King(Maaza Mengiste)
3.Burnt Sugar(Avni Doshi)
4.Real Life(Brandon Taylor)
5.This Mournable Body(Tsitsi Dangarembga)
(未読につき番外)