ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2020年ぼくのベスト3小説

 と題したものの、今年も読書量はお寒いかぎり。とてもベスト3など選べたものではない。このぶんでは、寝床のなかで追いかけている日本文学と同様、10冊未満のなかからマイベスト選出という笑い話のような年も、そう遠くはなさそうだ。
 それどころか、今年刊行された新作に絞ると、もうその笑い話が現実のものになっている。これではせいぜいベストワンを選ぶしかあるまい。
 旧作中心の読書になってしまったのには、いちおう理由がある。いつかも書いたように、コロナの時代の年金生活者にとっては、「読まずに死ねるか」と思える作品を、なるべく安上がりに読むのが上策だろう。
 そこでいきおい、定評のある旧作、名作傑作、古典のたぐいをペイパーバックで読むことになる。ビートルズの名曲をもじれば、ペイパーバック・リーダー!というわけだ。
 実際今年、ハードカバーで読んだ新作は2冊だけ。Hilary Mantel の "The Mirror & The Light"(☆☆☆★★)と、Douglas Stuart の "Shuggie Bain"(☆☆☆★★★)である。どちらもブッカー賞関連ということで、やむなく買い求めた。ほかにも英米の主な文学賞の受賞作や候補作を(むろんペイパーバックで)読んでみたが、"Shuggie Bain" は新作のなかではベストワンだと思う。
 新作といっても原書の刊行年は今年以前のものもあり、そのため新型コロナというパンドラの箱にかかわる作品は、当然のことながら1冊もない。事実は小説よりも奇なり、文学はまだ現実をカバーしきれていないわけだ。現実に追いつくのはワクチンの普及と同じく、来年以降になるのだろうか。
 地域に限定すれば、現実と並行しているような作品もある。ピューリツァー賞と全米図書賞の受賞作は、それぞれ黒人差別と中国系移民を扱ったもの。分断の時代とやらを反映した結果かもしれない。
 一方、旧作に目を転じれば、時代の推移にかかわらず人間の本質を洞察しているがゆえに、今日の状況にも十分当てはまるものがある。だからこそ名作古典たりうるわけだ。新型コロナ以前から、パンドラの箱はとうの昔に開けられていたのであり、混乱が急速に拡大し、混沌という人間の本質がますます顕在化しているのが現代世界ともいえるだろう。こうした現実を先取りしているかのような作品が、Loius-Ferdinand Céline の "Journey to the End of the Night"(1932 ☆☆☆☆★★)である。 

 それゆえ、これがぼくのほんとうのベストワン。ついで、Peter Carey の "Oscar and Lucinda"(1988 ☆☆☆☆★)。 

 そして、David Mitchell の "Number9Dream"(2001 ☆☆☆☆)がとても面白かった。物語の面白さという点では、これがベストかもしれない。 

 来年もみなさまに少しでも追いつくよう、旧作中心の読書になると思います。どうぞよいお年を。

(下は、このところ聴き直しているフルトヴェングラー「第九」CDのひとつ。ほんとうは Mythos 盤が最高だと思うのだが、なぜかアップできないので)