ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jonathan Franzen の “The Corrections”(1)

 2001年の全米図書賞受賞作、Jonathan Franzen の "The Corrections" を読了。本書はまた2002年のピューリツァー賞最終候補作でもある。さっそくレビューを書いておこう。 

The Corrections (English Edition)

The Corrections (English Edition)

 

[☆☆☆☆] 俗に「馬鹿は死ななきゃ治らない」という。が、よかれ悪しかれ、持って生まれた性格の矯正や、しだいに身についた価値観の修正ほど厄介なものはない。そして性格・価値観は十人十色。このおよそ軌道修正しがたい、それぞれ考えの異なる人間の集団の最小単位が、婚姻や血縁で結びついた家族である。本書は、こうした家族ならではの必然的な対立を知的なユーモアあふれる文体で活写。クリスマスを一家全員で過ごすべきか否か、といった些末な問題がこじれにこじれる場面では、その些末さゆえに不協和音のおもしろさが増幅、ひるがえって些事の解決もまた人生の現実なのだと思い知らされる。一方、パーキンソン病を患う夫が妻の目前でクルーズ船から海に転落したり、他人の助言をかたくなに拒否したりするエピソードでは、介護の問題がデフォルメに近いかたちでコミカルに描かれ、かえってその深刻さが痛切に伝わってくる。このとき、ことの大小にかかわらず奏功しているのが、やはりデフォルメ化されたキャラクターづくりだ。上の夫妻もその子どもたちも、周囲の主な脇役陣もみな、リアルながら常軌を逸した存在であり、レズがらみの三角関係など奇想天外な設定が連続。呆気にとられるうちに意外な真実が浮かびあがり、各人の性格や価値観の相違に発するバトルを通じて、人生の軌道修正のむずかしさ、立場の異なる相手を認める寛容のむずかしさが浮き彫りにされる。こうした困難に充ち満ちた人生の象徴が本書のドタバタ悲喜劇なのである。