ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Richard Russo の “Empire Falls”(2)

 絶不調というほどではないが相変わらず不調。胃の痛みはまだ少し残っているし、風邪のほうも喉の痛みはなくなったものの、こんどは咳が出るようになった。喘息が再発しなければいいのだけど。
 というわけで今週も読書はまったりペース。ご存じ Maggie O'Farrell の "Hamnet"(2020)のペイパーバック版がようやく届いたのでボチボチ読んでいる。去年の春ごろだったか、女性小説賞の有力候補作として現地イギリスのファンのあいだで人気沸騰。その後、実際に同賞を受賞したあと、年末にはニューヨーク・タイムズ紙の年間ベスト5小説のひとつにも選ばれ、先日はまた全米批評家協会賞を受賞。すごい鳴り物入りだけど、期待したほどには面白くない。いま過去記事を検索すると、13年前に読んだ O'Farrell の旧作 "The Vanishing Act of Esme Lennox"(2006 ☆☆☆)よりは出来がいい、という程度。
 表題作も看板倒れだった。2002年のピューリツァー賞受賞作だが、このところ取り組んでいる〈2000年代前半の名作シリーズ〉のなかでは、いちばん退屈だった。あまりにアクションがなさすぎる、あっても遅すぎる、というのが最たる理由で、登場人物の紹介が一巡するまで丹念に性格や心理を書き込むという姿勢はいいのだけど、その紹介がもうそろそろおしまいか、と思いきや、なかなか終わらない。
 ただ、人物同士の会話はなかなか楽しい。メイン州の田舎町 Empire Falls で Miles Groby という中年男のレストランに、いろいろな客がやって来る。ケッサクなのは、Miles の妻 Janie の不倫相手が堂々と乗り込んできて、Miles と Janie のうわさ話をしたり、ほかの客とカード遊びに興じたり。そんな会話や情景描写から、それぞれの立場や関係が次第に浮かびあがる、という寸法だ。このパターンが Miles の接する相手すべてについて当てはまる。
 それが一巡どころか二巡三巡、何巡かしたとき、突然、「ショッキングな大事件。それから一気に結末へとなだれ込み、エピローグで意外な真実が暴露される」。ぼくはそれを期待しながら読んだのだけど、途中「アクションがなさすぎる」ことに辟易してしまい、寝床のなかでは、明らかに事件がすぐ起こりそうな『時計館の殺人』を読みはじめた。なかなか面白い。
 Miles はレストランの店主というだけで、オーナーは町の資産家 Mrs. Whiting。その亡き夫がプロローグとエピローグに出てくる Charles Whiting で、Miles の母親ともども、この四人の関係も「意外な真実」にふくまれる。だからネタは明かせないのだが、彼らの「複雑な絡みあいのように、小さな町ならではの濃密な人間関係もまた運命」というのはホントの話です。ぼくは愛媛の田舎育ちなのでよく分かる。なるほど、さもありなん、という実感があればこそ、このしんどい小説と最後までつきあえたのかもしれない。

(下は、最近ハマっているCD。上の「Janie の不倫相手」もカントリー・ミュージックのファンだった)  

Kenny Rogers 21 Number Ones

Kenny Rogers 21 Number Ones

  • アーティスト:Rogers, Kenny
  • 発売日: 2006/06/26
  • メディア: CD