ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

James McBride の “Deacon King Kong”(2)と今年のピューリツァー賞予想

 去る17日、ぼくと同じように、え?と驚いたひとがいるかもしれない。当日届くはずだった David Diop のペイパーバック版 "At Night All Blood Is Black" が、なぜか1ヵ月先に到着延期との知らせ。あわててキャンセルし、出品しているイギリスの店に発注しなおした。
 ところがきのう、ふたたび驚いた。たまたま商品の掲載ページをひらいたら、なんと海外経由ではなく日本で直接すぐにゲットできるようになっているではないか。どうなっとるねん!
 同書は今年の国際ブッカー賞最終候補作で、現地ファンのあいだでは2番人気。仏語の原書 "Frère d'âme"(2018)は Prix Goncourt des Lycéens(高校生のゴンクール賞)を受賞し、2020年に刊行された英訳版も先日、ロサンゼルス・タイムズ文学賞を受賞したばかり。期待は高まるばかりだが、あいにく国際ブッカー賞の発表が迫っている(ロンドン時間6月2日)。それなのに、きょうもまだ本は届いていない。まったくもう!
 と、ここまで書いたのが午前中。午後になって念のため、もういちど郵便受けを覗いてみたら、こんどはうれしい驚き。望外の速さで同書が届いていた。ブックデポジトリーさん、ありがとうございます!
 さっそく取りかかりたいところだが、上の事情でやむなく買い求めた Yaa Gyasi の "Transcendent Kingdom"(2020)がまだ終わらない。こちらは今年の女性小説賞最終候補作で、同じく現地ファンのあいだでは2番人気。今年4冊目のハードカバーである。ペイパーバック派のぼくとしては、面白くない。
 がしかし、これはなかなか出来がいい。ぼくにはピンとこなかった、1番人気の "No One Is Talking About This"(☆☆★★★)よりも、こちらのほうがむしろイチオシだ。ガーナ系移民の若いアメリカ人女性が主人公だが、よくある移民物語のパターンにのっとりつつ、それを超えた面白さがある。
 いかん、前置きが長くなってしまった。表題作の話に移ろう。いま P Prize. com をチェックしてみると、相変わらず The 2021 Pulitzer Prizes will be announced on May 4th, 2021. との一文が載っている。しかし正しくは、ニューヨーク時間で6月11日発表。こちらも、どうなっとるねん!
 それはともかく、同サイトの2021年ピューリツァー賞予想ランキングをコピペすると、上位6冊はつぎのとおり。
1. The Vanishing Half by Brit Bennett 

2. Deacon King Kong by James McBride 

3. A Children's Bible by Lydia Millet 

4. If I Had Two Wings by Randall Kenan(未読) 

If I Had Two Wings: Stories (English Edition)

If I Had Two Wings: Stories (English Edition)

 

5. Memorial by Bryan Washington(未読) 

Memorial: A Novel (English Edition)

Memorial: A Novel (English Edition)

 

6. Shuggie Bain by Douglas Stuart 

 このうち既読の4冊をぼくのランキング順に並べかえると、
1. Shuggie Bain
2. Deacon King Kong
3. The Vanishing Half
4. A Children's Bible
 話題性としては、去年のブッカー賞につづいて "Shuggie Bain" の二冠達成か、という興味があるものの、あちらは舞台がグラスゴーだけに不利。ニューヨークは南ブルックリンが舞台の "Deacon King Kong" のほうが、第2位ながら有利だと思う。
 内容については、昨年のニューヨーク・タイムズ紙年間ベスト5小説のひとつに選ばれるなど超話題作なので、某野党の決まり文句でいえば「遅きに失した」ぼくのレビューをチラ読みするまでもなく、みなさん先刻ご存じだろう。
 レビューに書かなかったことを二点補足。まず、本書の時代は1969年ということだけど、ぼくは読み終わって、1930, 40年代のフランク・キャプラ監督作品を思い出した。「オペラ・ハット」(36)、「我が家の楽園」(38)、「スミス都へ行く」(39)、「素晴らしき哉、人生!」(46)などである。
 同じころに活躍したローレル&ハーディを思わせる掛け合い漫才のような一幕もあるが、最後の葬儀シーンで、キャプラ映画に描かれた「古き佳きアメリカ」の味わいがあるように思われたのだ。ただしもちろん、その現代版である。「極端なポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)が横行、キャンセル・カルチャー(粛清文化)が猛威をふるっているといわれる」現在のアメリカだが、融和と寛容を望んでいる人びとも多いのではなかろうか。
 つぎに、これってコロナの話に似ているな、と思ったくだりがある。Dominic had just returned from a nine-day visit to see his mother in Port-au-Prince, where he contracted and then passed around the usual strange Third World virus that floored half his building, sending residents crapping and puking and avoiding him for days ― though the virus never seemed to affect him.(p.3)
 その後、この奇病にかんするフォローがないので感染拡大は抑えられたもようだが、刊行直前に急遽、書き加えられたエピソードかも、と思ったりしたものだ。なにはともあれ、本書が栄冠に輝くことを願っています!