ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Louise Erdrich の “The Night Watchman”(1)

 今年のピューリツァー賞受賞作、Louise Erdrich の "The Night Watchman"(2020)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 

[☆☆☆★★] いまやマイノリティはアメリカ文学の主要なテーマのひとつだが、ネイティヴ・インディアンの血を引く巨匠ルイーズ・アードリックは、そうした潮流とは無関係に昔から、先住民の伝統と文化、アイデンティティ、差別の問題とからめながら、家族愛や友情など普遍的な題材を扱ってきた。ノースダコタ州の工場の夜警トマスを主人公とする本書もそのひとつである。彼は居留地委員会の代表でもあり、20世紀なかば、先住民の解放と称して実際は居住権の剥奪を意図した法案への反対運動を開始。ややもすれば単調で堅苦しいストーリーになりがちなところ、同じ工場の女工ピクシーを第二の主人公にすえ、その家族や同僚、彼女に好意を寄せる男たち、さらにはトマスの家族や友人などを登場させることで変化が生じ、滋味豊かでふくらみのある作品に仕上がっている。失踪した姉を探しに都会へ出かけたピクシーが、いかがわしいバーのショーに出演するくだりがひとつのハイライト。これに象徴されるように、居留地というコミュニティのさまざまな人生模様が織りなされる緊密な構成で、マジックリアリズムに接近したエピソードもあり楽しめる。が、ワシントンでもよおされた上院公聴会における法案推進議員とトマスたちとの対決が意外に盛りあがらず減点。同議員がそれほど強烈な悪役とも思えないのは史実にもとづいてのことだろうか。