ゆうべ、フランスのノーベル賞作家、Patrick Modiano の "Honeymoon"(1990, 英訳1992)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] ラストの虚無感、喪失感がたまらない。一般読者の口に合うかどうかはさておき、〈モディアノ中毒〉患者には、とりあえず禁断症状を抑える効果あり。いや、もっと深く胸をえぐられたいと、ほかの諸作を再読したくなる点では薬効なしか。ドキュメンタリー映画製作者のジャンがミラノのホテルに投宿。その二日前、おなじホテルで自殺したフランス人女性の名前を知ったとき、あしかけ20年にわたるジャンの心の旅がはじまる。第二次大戦中、南仏のリゾート地で出会ったハネムーン中のイングリッドとその夫リゴー。パリや郊外の町でふたりの足跡をたどり、ふたりの過去を再構成しながら、ジャンは自身の青春をふり返り、疎遠の妻やその愛人たちがかかわる現在の生活を見つめる。異なる時代におなじ街路を歩んだジャンとイングリッド。過去と現在が融合した超時間的な流れにそって人称も視点も変化するなか、移ろいゆく、あいまいな現実世界で実存の証しを求めるジャンの姿はまさに現代人そのものだろう。戦争の影を目のあたりにした瞬間のイングリッドを思うと、たまらなく切ない。