ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Damon Galgut の “The Promise”(2)

 Damon Galgut、どこかで目にしたことのある名前だなと思って過去記事を検索すると、2010年のブッカー賞最終候補作、"In a Strange Room" の作者だった。

 拙文を読みかえすうちにやっと思い出したのだけど、これはなかなかの秀作である(☆☆☆☆)。この年の受賞作は Howard Jacobson の "The Finkler Question" だったが、同書は愚にもつかぬ凡作で(☆☆★★)、ブッカー賞関連というだけで飛びつくのはキケンと思ったものだ。

 Wiki によると、Damon Galgut としては、2003年にも "The Good Doctor"(未読)が最終候補作に選ばれたらしい。つまり、この "The Promise" で三度目の正直なるか、というわけである。そこで今年の候補作を現地ファンふうに格付けしてみると、
1. The Promise(☆☆☆★★★)
2. A Passage North(☆☆☆★★)
3.
4.
5. Bewilderment(☆☆☆)
6. No One is Talking About This(☆☆★★★)
 未読の2作、"The Fortune Men" と "Great Circle" が空白にはいりそうだが、"Great Circle" は大作だし、どうも人気薄なのでパスするかも。もし栄冠に輝いたら読んでみようかな。
 というわけで、この "The Promise" は個人的に暫定1位なのだけど、ショートリスト予想の記事でも書いたように、「今年はどうも本命不在、混戦模様のような気がする」。"The Promise" にしても、「ほんとうは☆☆☆★★と☆☆☆★★★の中間くらい」。「"In a Strange Room" のほうがずっとよかった」。

 まず欠点から挙げておくと、主役脇役のみならず、「端役にいたるまで交代で話者となり、文字どおり猫の目のように視点が変化」。これがとりわけ前半、煩わしい。話者交代の頻度が落ちたところで読みやすくなる。
 その視点変化もふくめ小説的にいろいろな工夫がほどこされているが、骨子は意外に単純だ。Both women know they won't see each other again. But why does it matter? They're close, but not close. Joined but not joined. One of the strange, simple fusions that hold this country together. Sometimes only barely.(p.288)
 この both women のあいだでかわされた約束が、南ア共和国における「白人と黒人の『近くて、近くない』関係、『この国をひとつにまとめる奇妙で単純な融合』の象徴となっている点がみごと」。"In a Strange Room" でも、「近くて遠い、遠くて近い人間関係」が描かれていたようだ。同書を読んだとき、ぼくはそれが「現代人の生きかたそのもの」だと思ったのだけど、あそこでもじつは、彼の国の歴史と現状が暗示されていたのかもしれない。

(下は、この記事のBGMにつかったCD。シューマンが聴きものです)

Public Performances 1934-1949

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