ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Nadifa Mohamed の “The Fortune Men”(1)

 きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Nadifa Mohamed の "The Fortune Men"(2021)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 神の裁きに間違いはありえないが、神ならぬ人間の裁判では、悲しいかな、時として誤審が起こる。まして1950年代のイギリスで黒人が被疑者となった場合には、冤罪の確率は相当あったのではないか。とそう推測したとたん、本書はテーマも結末も序盤で見える、見えた気がしてしまう。これは小説として大きなハンディである。このハンディを作者はいかに克服するか。物語にどんな肉づけをして、予想外の展開とテーマの深化を図るか。こうした観点から判断すると、本書はかなりがんばっているが、いささかもの足りない。ウェールズ港湾都市カーディフで起きた殺人事件の被害女性はユダヤ人、被疑者の青年マムードはソマリア出身でどちらも移民。事件直前まで、両者とその家族の生活が並行して活写され楽しめる。ところが事件後、次第にマムードの話一本に絞られてからは、人種差別の不条理と悲惨という昔ながらのテーマにとどまり、事件の重大性はさておき、小説としての新味はない。捜査や裁判のあいだに少年時代の冒険や妻子とのふれあい、貧民街での暮らしぶりなどが織りまぜられ、誇り高き男の肖像が浮かびあがってくるあたり、手堅い構成だが定石どおり。最後、このテーマで斬新な物語をつむぎだせなかった理由が判明する。さてその結末とは?