ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2021年ブッカー賞発表とぼくのランキング

 ニュースを知って思わず拍手した。Damon Galgut の "The Promise" が今年のブッカー賞を獲得! まずは順当な結果だろう。
 Galgut 自身としては、先月の記事でも紹介したとおり、2003年に "The Good Doctor"(未読)、2010年に "In a Strange Room"(☆☆☆☆)が最終候補作に選ばれていたので、これでやっと三度目の正直ということになる。

 ぼくは今年、一次候補作を4冊だけ読み、それをもとにショートリストを予想(1冊外れ)。その時点で「どうも本命不在、混戦模様のような気が」していた。その後に読んだ最終候補作とあわせ、計5冊のなかから1位に推したのが "The Promise"。前半の目まぐるしい視点変化が煩わしいなど、技巧的には不備もあったが、読後感はこれがいちばんさわやかだった(☆☆☆★★★)。ただし最後まで混戦だったので、ハナの差でゴールインというのが実際のところかもしれない。
 この "The Promise" よりも現地ファンのあいだで人気が高かったのが "Bewilderment"。こちらはSF的なアイデアが秀逸で技巧的にもすぐれていたが、アイデアの掘り下げがどうも不十分。鬼才 Richard Powers は2018年の最終候補作 "The Overstory" につづき、今回も才子才に倒れたようだ(☆☆☆)。

 "The Promise" と "Bewilderment" の共通点は human communication だと思う。前者にはそれが実現することへの希望と絶望があり、この相反する感情から葛藤が生まれ、そこからさらに、さわやかな読後感が生まれ、つまりは深みのある文学作品となっている。ところが後者は深みが足りない。葛藤が足りないからだ。Damon Galgut は人間を複雑な存在として二元論的にとらえているのたいし、Richard Powers は一元的に単純な図式で考えているようだ。今回の作品におけるディストピアの描写がその証左である。
 ディストピアといえば、"No One Is Talking about This" のそれはさらに単純。どうしてこんな駄作がショートリストにのこったのか。なにやら文学が政治に毒されているようで気味がわるかった(☆☆★★★)。
 "The Fortune Men" の舞台も、人種差別のいちじるしい閉塞した社会という意味ではディストピアに近いが、こちらは定番のテーマで展開も定石どおり。差別テーマで斬新な小説を書くことのむずかしさを立証しているようだ(☆☆☆★)。
 一方、"A Passage North" は題名から連想されるように「心の旅」。こちらも定番のテーマで、しみじみとした味わいはあるものの、従来のパターンを打ちやぶるほどではなかった(☆☆☆★★)。
 このように、「human communication」「ディストピア」「心の旅」と、ぼくなりに今年のブッカー賞のキーワードをひろってみると、なんとなく昨今のコロナ禍における現代人の心理と状況を反映しているようにも思えるのだが、まあ、こじつけでしょうな。
 なにはともあれ、以下、例によって個人的なランキング順に最終候補作をならべておこう。
1.The Promise(Damon Galgut)

2.A Passage North(Anuk Arudpragasam)

3.The Fortune Men(Nadifa Mohamed)

4.Bewilderment(Richard Powers)

5.No One Is Talking about This(Patricia Lockwood)

未読につき番外:Great Circle(Maggie Shipstead)