ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Antonio Tabucchi の “Indian Nocturne”(1)

 イタリアの作家 Antonio Tabucchi(1943 - 2012)の "Indian Nocturne"(原作1984, 英訳1988)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] まさに「インド夜想曲」だ。ボンベイからゴアの海辺の町まで十二日間の旅で、男は不眠症にでもかかったように夕刻から夜半、せいぜい早朝にかけて行動。日中のできごとはほとんどカットされている。このタブッキ版「十二夜」で男は失踪した友人の行方を追い、さまざまな人びとと出会う。いずれも過去の影、不幸の影がある男と女ばかりで、背景として貧困やカースト制などインドの暗い現実も浮かびあがり、いきおいメランコリックな調べが流れる。やがて「悲しい笑顔」の男は「おれはだれだ」という疑問に駆られ、旅の目的もじつは自分探しであったことに気づく。定番のテーマだが、なにしろ異国情緒たっぷりのトラヴェローグで、主人公ともども、夢のなかで夜のインドの大平原をさまよっているような気分になる。男が友人の立場から全篇を要約する幕切れは、フィクションが現実を先取りしたメタフィクションの味わい。感傷的でない憂愁に彩られた佳篇である。