ゆうべ、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の "Young Once"(原作1981, 英訳2016)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★★] 青春とは、多少なりとも、ほろ苦いものである。「ほろ苦い」は英語でビタースウィートというが、このすぐれた青春小説の場合はビターの割合が過半。しかもそれが尋常の苦さではない。その凄絶な体験を時にドラマティック、時にノスタルジックに綴る緩急自在の語り口が絶妙で、しょせん定番の通過儀礼なのだと醒めた目でながめようとしつつ、つい夢中になってしまった。冒頭、山荘で妻オディールの誕生日を祝うルイ。この中年夫婦の幸せなひとときが一転、ふたりの人生を運命づけた激動の青春の半年間へと切りかわる。兵役をおえたばかりのルイと歌手志望のオディールが出会い、日夜連続する危険と隣りあわせの冒険がはじまる。しかしその危険の正体はつねに明らかにされるわけではなく、示された場合も遠まわし。おたがいに秘密も生まれ、事件の核心は謎めいたフィルム・ノワールの闇の世界につつまれている。「ふたりとも、パリの街なかを歩くのはこれが最後とは知らなかった」などと、過去と現在を重ねあわせるモディアノ節も全開。幕切れから上の冒頭シーンをふりかえると、たまらない切なさに胸をえぐられる。