ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Modiano の “So You Don't Get Lost in the Neighborhood”(1)

 ゆうべ、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の "So You Don't Get Lost in the Neighborhood"(原作2014, 英訳2015)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 子どもにとって、おとなはふしぎな存在である。なにをしているのか、なにを考えているのか、ほんとうのところはよくわからない。ある場合には、両親がいつのまにかいなくなり、それまで顔見知りにすぎなかった女のひとが、なぜか一緒に新しい家で暮らしている。ひとりで近所を探索しても迷子にならないように、住所をしるしたメモを持たせてくれた。夜の雑踏のなか、離ればなれにならないように、しっかり手を握りしめてくれた。あのひとはいま、どこにいるのだろう。紛失したアドレス帳の拾い主から連絡を受けた孤独な老作家ジャンは、昔の殺人事件について調査中だという拾い主の男と面会。事件のファイルに記載されたパリの各所を訪ね歩くうちに40年前の記憶が少しずつよみがえり、ジャンは「時の果てで凍りつき」、めまいをおぼえながら「通りを進むにつれ時間をさかのぼっていく」。事件の核心は闇につつまれ、いわくありげな人たちでさえ記憶の引き金になるだけ。通常なら不満に思うところだが、引用したようなモディアノの筆にかかると気にならない。幼児体験、アイデンティティの確認などと論じるのは野暮だろう。出会いと別れの悲しさに胸を深くえぐられる佳篇である。