ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Chinua Achebe の “Things Fall Apart”(1)

 Chinua Achebe の "Things Fall Apart"(1958)を読了。恥ずかしながら、いままで未読だった。陳腐なレビューしか書けそうにないが、さて。

Things Fall Apart

Things Fall Apart

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[☆☆☆☆★] 文化とは、そして宗教とは、ある民族や国民に特有の生きかたである。エリオットのこの説にしたがえば、まず内部的には、共同体の「生きかた」と、個人の「生きかた」との対立葛藤という問題がある。どんな「生きかた」にも長所と短所があり、また古い伝統は子孫にとってかならずしも合理的ではない。それゆえ、各個人が共同体固有の短所や非合理といかにつきあうかという問題から、さまざまな悲喜劇が生まれる。これが本書の前半である。ふしぎな呪術、厳しい戒律、にぎやかな儀式や祭礼。とりわけ、イボ族の勇者オコンクォが養子や幼い娘をめぐり、内なる愛情と外なる掟に引き裂かれながら起こす行動がドラマティックで、息づまるような展開だ。それが後半、村にキリスト教宣教師が出現してからは「文明の衝突」篇。上のエリオットに戻ると、文化と宗教が「民族や国民に特有の生きかた」である以上、当然外部的には千差万別、さまざまな相違がある。ゆえに本来、それを優劣の観点から見るべきではないのだが、絶対神を仰ぐ一神教キリスト教は異教の信仰を禁じ、なかんずく土着の宗教を迷信誤謬として排斥してきた。絶対を信じるものほど強いものはない。そこでイボ族の文化も宗教も妥協をしいられ、共同体の「絆が崩れゆく」破目になる。その崩壊過程がまた劇的で、波乱に富んでいる。西欧流の「上から目線」を皮肉り、文化と宗教の本質を鋭く衝いた名作である。