ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

NoViolet Bulawayo の “Glory”(1)と、今年のブッカー賞予想

 今年のブッカー賞最終候補作、NoViolet Bulawayo の "Glory"(2022)を読了。Bulawayo(1981– )はジンバブエの作家で、本書は彼女の第2作。デビュー作 "We Need New Names"(2013 ☆☆☆★★)も刊行年にブッカー賞最終候補作に選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。

Glory

[☆☆☆★] ジンバブエ版『動物農場』で、終幕直前まで『1984年』にも似たディストピア小説だが、時代とところ変われど品変わらず、本質的にはオーウェルの世界から一歩も外へ出ていないことに失望した。舞台はアフリカ、動物たちの治める架空の国ジダーダ。1980年代から21世紀の今日まで、宗主国からの独立と指導者の独裁、クーデター、新たな独裁者の出現とその圧政、そして民主革命という現代史の流れが、多くの動物たちの口から語られる。この設定により、言論弾圧や粛清など全体主義の恐怖と民衆の悲劇がデフォルメされ、本書のモデルとなったジンバブエの歴史を人間がしるした場合以上にドラマティックな効果が得られている。茶番劇はさらにおかしく、惨劇もさらに恐ろしく、かえって現実の不条理性と残虐性がよく伝わってくるというデフォルメ効果抜群。諷刺の矛先は西欧諸国の旧植民地にたいする搾取の継続や、国内の部族主義にもむけられ、ツイッターやワッツアップなど現代的な意匠がほどこされている点も目新しい。が、こうした一見斬新とも思える工夫をすべて取りはらってみると、そこにはオーウェルがいる。独裁者の登場をうながし、彼を支持するのはつねに衆愚という苦い真実ひとつとってもオーウェルの二番煎じ。それなら、このリフレインの多い長大で饒舌な新作を読むのは時間の無駄ということになるが、いやいや、民衆の勝利という栄光にいたる道は長く険しいものなのだから、本書の長さにも耐え、ここはむしろ語り口のユニークさを楽しむべき、と考えてもいいだろう。

 さて、これで今年のブッカー賞最終候補作を6冊とも完読。発表前に最終候補作をすべて読みおえたのはずいぶん久しぶりだ。ここでランキングも確定しておこう。
1. Small Things Like These(☆☆☆★★★)
2. The Seven Moons of Maali Almeida(☆☆☆★★)
3. The Trees(☆☆☆★)
4. Glory(☆☆☆★)
5. Treacle Walker(☆☆☆★)
6. Oh William!(☆☆☆★)
 この順位からいえば "Small Things Like These" が受賞と予想してもいいのだが、ぼくはむしろ、"The Seven Moons of Maali Almeida" のほうを推したい。マジックリアリズムを駆使している点で、いかにも 「ブッカー賞タイプ」らしい作品だからだ。当たるも八卦当たらぬも八卦、どうなるでしょうか。