ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Isabel Allende の “The House of the Spirits”(2)

 先週末から今週頭まで、所用で愛媛の田舎に帰省していた。紅葉狩りも期待していたのだけど、うっかりデジカメを忘れてしまい、使い馴れていないケータイでなんとか撮影。(写真は宇和島市和霊公園

 と、そこまではよかったのだが、帰宅して二日後、のどに違和感をおぼえ、いまも夜明けなどひどく痛む。おまけに、なんとなく熱っぽい。とうとうコロナにかかってしまったか、5回もワクチン接種を受けたので、軽い症状で済んでいるだけかも、と戦々恐々。寝ていても治らないので、この記事はなかばヤケクソで書いている。
 旅の友は Nikos Kazantzakis の "Zorba the Greek"(1946)だったが、ろくに進まなかった。語り手の「私」がクレタ島に渡る直前、ギリシャ人の男 Zorba に出会い、島のホテルの女経営者 Madame Hortense に Zorba がおサワリしている場面で中断。この作品については、映画『その男ゾルバ』(未見)の原作ということしか知らない。
 旅行中驚いたことがある。タブレットで本ブログをチェックしたところ、注目記事に Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler"(1979)のレビューが挙げられているのを見て、思わずわが目を疑った。え、この本、もう読んでいたのか!

 じつは最近、書棚のCの作家コーナーに同書が見当たらないのに気づき、さっそく購入したばかり。帰宅後、あらためて書棚をながめてみたら、なんと旧本が既読書コーナーに鎮座しているではないか。
 ともあれ、どんな事情で上のレビューが注目記事になったのかは知らないが、読むと文字どおり拙文なので加筆修正(したつもり)。直しているうちに、そういえば、たしかにこれ、読んだおぼえがあるなと思い出した。なんともマヌケな話だ。
 いかん、もう頭がボンヤリしてきた。駆け足で表題作のことにもふれておこう。これは周知のとおり邦訳もあり、その紹介文によると、「精霊たちが飛び交う、大いなる愛と暴力に満ちた神話的世界を描」いたもの。ううん、「神話的世界」ねえ、ほんとにそうかなあ。
 ぼくも着手前、本書がマジックリアリズムを駆使したベストセラーという評判だけは知っていた。それがもちろん今回読んでみようと思った動機なのだけど、いざ取り組んでみると、ここに出てくるマジックリアリズムは、そんなにたいしたものじゃないな、と思った。たしかに spirits は登場するのだが、spirits と実際に交流するのはもっぱら、一種の超能力者 Clara だけだからだ。It [Clara's world] was a world in which time was not marked by calendars or watches and objects had a life of their own, in which apparitions sat at the table and conversed with human beings, the past and the future formed part of a single unit, and the reality of the present was a kaleidoscope of jumbled mirrors where everything and anything could happen. .... Clara lived in a universe of her own invention, ....(Bantam Books, p.82)
 つまり、Clara の「神話的世界」は彼女自身のものであって、必ずしも周囲の人物が全員共有しているわけではない。しかも、Clara は超能力者。だったら spirits とふれあってもなんらフシギではない。ってことは、どうやら本書のマジックリアリズムは摩訶不思議なものではなく、いわば「理屈のあるマジックリアリズム」なのではないか、と序盤からぼくは疑ってしまった。(つづく)