ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Sleeping Car Porter” 雑感

 このところなにかと雑用に追われ、読書はひと休み。雑用のなかには書斎のレイアウトの変更と、それに伴う家具類の移動もあった。
 べつにたいした家具ではない。デスクは家人の実家にあった小さな食卓で代用しているのだけど、いままで窓向きだったのを室内に向かうように配置。背面は押し入れを改装した書棚で、右手にプリンター用のミニテーブルと、移動式の小さな書棚。左手には、家人の亡父の小さな書棚の上に、家人が子どものころ使っていた玩具箱。いろいろなものの寄せ集めで、いわば安上がりの廃物利用だが、おかげで「コ」の字の中心に座れるようになった。
 そんなレイアウトのヒントになったのは、小樽文学館の一角に再現されている伊藤整の仕事場。

 見かけて撮影したのはもう十年以上も昔のことだが、なるほどなあ、と感心したおぼえがある。必要なものが身のまわり360度、すぐ手の届くところに置かれていた。
 今回のレイアウト変更も同じコンセプト。「コ」の字のまん中にいると気分的にも落ちつくのだけど、難点がひとつある。以前より自然光がパソコン画面に当たらなくなり、昼間でもデスクのスタンドを点灯しないといけないことが多くなった。万事完全というわけにはいかないものですな。
 そんな新環境?で読みだしたのが、去年のギラー賞受賞作、Suzette Mayr(1967- )の "The Sleeping Car Porter"(2022)。Wiki によると、この女流作家はカルガリー大学の教授でもあり、本書もふくめ、デビュー作 "Moon Honey"(1995 未読)からいままで6作発表している。
 "The Sleeping Car Porter" はまた、今年の Republic of Consciousness Prize US/Canada にノミネート。同賞は2017年にイギリスで創設され、対象は社員5人未満の小出版社から刊行された作品ということだが、UK のほかに US/Canada 部門があるとは知らなかった。以前から分かれていたのか、今年からなのかは未確認。
 ともあれ、本書の時代と舞台は1929年、カナダ大陸横断鉄道の寝台車。黒人青年 Baxter が porter として乗り込んでいる。porter といっても荷物運びではなく、米語で「寝台車の客室係、ボーイ」(『ロングマン英和辞典』)。
 Baxter はほんとうは歯科医志望なのだが、大学に入るため貯金をしようと現職についている。序章では、めざとく乗客や同僚の歯並び、歯の状態を観察するあたりが愉快。
 やがて Baxter はモントリオールから乗車。いまは4日目、カルガリーからバンフへ向かっているところで、どうやらトラヴェローグのようだ。なにかとトラブルを起こしたり難癖をつけたりする乗客や、意地のわるい同僚たちと Baxter とのやりとりが、まずまずおもしろい。対応をまちがえると勤務評価が下がり、解雇の危険性もあるからだ。
 勤務形態は過酷で、Baxter は睡眠不足の毎日。ゆえに sleeping car porter ならぬ sleepy car porter などと自虐発言も。
 変わったエピソードとしては、車内で発見したゲイのポルノはがきが気になり、バレるとクビになると知りつつ捨てられない。昔の濡れ場の回想シーンもあり、このゲイの要素がどう発展するかが読みどころのひとつかもしれない。