ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Geetanjali Shree の “Tomb of Sand”(3)

 今年のピューリツァー賞はご存じのように二冊受賞。チェック洩れかもしれないけど、これはどうも史上初のようだ。
 ぼくはすでに二冊とも落手したが(最近、米アマゾンのサービスはとても迅速)、届いた Barbara Kingsolver の "Demon Copperhead"(2022)をひと目見てガックリ。こんなデカ本、実際いつ読む気になるか知れたもんじゃない。
 ただ、Kingsolver はその名のとおりキングみたいな大作家だ。読むとしたらこれで5冊目になるけれど、旧作はどれも水準以上。ピューリツァー賞受賞はむしろ遅すぎたくらいだ。ぼくの好みでいうなら、"Prodigal Summer"(2000)あたりで獲ってほしかった(☆☆☆☆★)。"The Poisonwood Bible"(1998)は99年の最終候補作だった(☆☆☆☆)。
 閑話休題。やはりデカ本の表題作だが、超大作であることを意識した著者の自作解説と思われるくだりがある。The crux of the matter is that those who haven't cared to read this far are advised not to read ahead either. But for those who relish colours and paths, why should they stop? ... those who wish to listen further will have to believe in shadows. ... This is what they call a crossroads. So which will it be? The path of shadows or sharply delineated dark shapes? If you're game for the first, come along, fellow traveller. Prefer the second? Then stop right where you are.(pp.684 - 685)
 ぼくはこれを読み、えっ、そりゃないでしょ、と思わず絶句。ここまでさんざん colours and paths につきあわせておいて、それがもし気にいらなかったら先へ進まなくていいよ、ですか。そんなこといわれて投げ出す fellow traveller なんているのかな。いないのを見越して著者はこう書いている。「途中で挫折したくなる読者も多かろう」と思われるこの作品、挫折するならとうの昔にサジを投げているはずだ。
 ともかく、終幕に近づくにつれテーマと直結しそうな文言が出てくるので(それはどんな作品でもそうなんだけど)、いまさら読みやめるわけにはいかない。And listen here, there have never been borders in human relationships and there never will be.(p.670)... the two beings rested side by side, one seated, one supine, truly lost in the old times, in love beyond any border or boundary.(p.695)
  ところが現実には、前回も拙文から引用したとおり、「『宇宙から見おろせば』ひとつの地域が実際は憎悪に満ちあふれ深く分裂している」。「憎しみが増すなか、愛を語ることは感傷的に思える」。
 そんな文脈から、ぼくは本書が「もし映画化して邦題をつけるなら『愛と混沌のインド』」。数多くの colours and paths を経た「壮大なラヴストーリー」であると結論づけたのだけど、どうでしょうか。
 やれやれ、前回はほんとうはここまで書くつもりだった。おしまい。(この項つづく)

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)

Fontessa