今年のブッカー賞候補作、Hisham Matar の “My Friends"(2024)を読了。周知のとおり、Hisham Matar は2006年ブッカー賞最終候補作、“In the Country of Men”(2006 ☆☆☆★★)でデビュー。表題作は今年のオーウェル賞受賞作でもある。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★]『さらば友よ』のアラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンの別れはカッコよかった。しかし映画とちがって、本書における男同士の別れは「劇的ではない」。いくら激動の時代を共に生きた仲間でも、表むきはあっさり別れるのが男の流儀ということか。むろん内心は穏やかではない。ロンドンに住むリビア系移民カーレドは、ひさしぶりに再会した友人ホサムと別れたあと半生を回顧する。カダフィ圧政下、ラジオ放送で朗読されたホサムの短編に感銘。イギリス留学後、もうひとりの親友ムスタファともども反カダフィ・デモに参加して瀕死の重傷。カーレドはしかし基本的にノンポリで、カダフィ政権打倒のため戦闘に参加したムスタファとホサムとは異なり、ロンドンにのこって事態の推移を見守る。一朝有事のさい、自由という理想に殉じて帰国すべきか、それとも移住先で確立した地位を守り、勝ち得た信頼に応えるべきか。その葛藤が最大の読みどころだ。静かに自分の心を見つめ、家族や愛する人びと、友人とその家族、恋人たちを優しく思いやるカーレド。過去と現在が交錯し、微妙な心の動きや、ふと目にした光景に詩情が宿る。昨今の国際情勢にも通じる政治問題を扱いながら政治一辺倒ではなく、むしろ政治が友情や家族愛、恋愛と深くかかわる現実をみごとに描いた佳篇である。
