本日(ニューヨーク時間20日)、今年の全米図書賞が発表され、小説部門で Percival Everettの "James"(2024)がみごと栄冠に輝いた。未読の最終候補作もあるが、まずは順当な結果ではなかろうか(☆☆☆★★)。
既読の最終候補作は Hisham Matar の "My Friends"(2024)で、これも佳篇だった(☆☆☆★★)。
周知のとおり、この二作は今年のブッカー賞にもノミネート。同賞受賞作 "Orbital"(2023)の出来を考えると(☆☆★★★)、"James" があちらで落選したのも、"My Friends" が同ショートリストにのこらなかったのも奇怪なできごとといわざるをえない。
その点、全米図書賞(National Book Award)のほうは、おそらく両作品の一騎打ちで、出来はともかく内容的に、いかにもアメリカらしい(national な) "James" がクビの差でゴールイン。結果だけでなく、最終コーナーから順当な賞レースだったのでは、と勝手に臆測している。
"James" は名づけて『ハックルベリー・フィンの冒険外伝』。おなじみハックが助演にまわる古典の本歌取りで、このアイデアはかなり成功している。しかも、たとえ「名作の換骨奪胎と知らなくても、アメリカにおける人種差別という、もはや文学史的には陳腐とさえいえるテーマから、よくぞこれほど面白い冒険小説を仕立てあげたものと感心させられる」。
ただ、文学史にのこるほどの傑作名作かと訊かれると、はて。上のレビューともども後日、気になる点をいくつかひろってみたが、
いまふりかえると、Percival Everett はとにかく芸達者。「多作家らしく手馴れた筆さばき」だけど、いささか器用貧乏のきらいがある。「自由論をはじめ、戦争の大義や、正義と不正義、過酷な二者択一など、明快な答えのない道徳的難問を小出しにしては引っこめるのはいかにも中途半端」だからだ。
さりとて、そんな難問をひとつひとつ、まともに論じては作品全体のバランスがくずれ、収拾がつかなくなる。深掘りするか、ソツなく仕上げるか、Everett にかぎらず現代作家が頭を悩ませる問題のひとつかもしれない。