ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rachel Kushner の “Creation Lake”(1)

 数日前、今年のブッカー賞最終候補作、Rachel Kushner の "Creation Lake"(2024)を読了。これは今年の全米図書賞一次候補作でもあった。
 Kushner(1968 - )がブッカー賞ショートリストにノミネートされたのは、"The Mars Room"(2018 ☆☆☆★)以来二度目。彼女はロス在住とのことなので、いつかドジャースとその天才選手を扱った作品で三度目の正直といきたいところだ。(以下のレビューは過去記事「2024年ブッカー賞ぼくのランキング」に転載し、本書を第4位に格付けしました)。

[☆☆☆]  ミステリ部分はけっこう面白い。アメリカの中年女性でフリーの秘密諜報員「わたし」が今回は「サディ・スミス」として、南仏の田舎に居住するカルト集団的なコミューンに潜入。ミッションは、巨大地下貯水池の建設に反対する環境運動家たちの動静を監視し、扇動工作によって組織を壊滅へと追いこむことだ。サディは冷静沈着でハニー・トラップを得意とするなど狡知にたけ、濡れ場もありニヤリとさせられる。が、作者はこうしたマタ・ハリの流れをくむスパイ小説に飽きたりず、組織の教祖ブルーノの思想を冒頭から開陳。ブルーノは、ネアンデルタール人ホモ・サピエンスの比較、人類の進化と文明の進歩、戦争の悲惨、資本主義の功罪などを論じながら、よりよい未来のために現代人が目ざすべき道を模索する。しかし彼自身、「自分の立場を見うしなった」と述懐しているとおり、高尚なトピックスに発展したわりには竜頭蛇尾。主張に説得力がない。エコテロリズムエコロジーだけという安易な物語を避けた点は評価すべきだが、作者がここでもし純文学とエンタテインメントとの融合を試みたのだとしたら、その意気やよしと賞賛すべきか、それとも無残な結果におわったことを嘆くべきか。評価のわかれそうな水準作である。