ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jayne Anne Phillips の “Night Watch”(1)

 今年のピューリツァー賞受賞作、Jayne Anne Phillips の "Night Watch"(2023)を読了。Jayne Anne Phillips(1952 - )は1970年代後半から短編を書きはじめ、"Machine Dreams"(1984 未読)で長編デビュー。第四作 "Lark and Termite"(2009 ☆☆☆★★)は、2009年の全米図書賞ならびに全米批評家協会賞の最終候補作だった。つづく "Quiet Dell"(2013 未読)のあと、十年の沈黙をやぶって世に問うたのが "Night Watch" である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 十九世紀中葉、南北戦争時代の物語とくれば、戦争の悲惨さか、奴隷制の過酷さを訴えたもの。とそんな紋切り型から脱した秀作の誕生である。むろん激しい戦闘場面はあり、戦争の申し子といえる人物たちも顔を出す。が戦争そのものは主題ではない。また差別の現実も描かれるが、ここで虐げられるのはアイルランド系移民だ。その家族が戦争で生き別れ、数奇な運命をたどったのち、やがて再会する。なんだ、よくある話ではないか、と侮るなかれ。その「再会」のしかたが尋常ではなく、おおいにツイストが効いている。主な舞台はウェストヴァージニア州ウェストンの山中と、街に実在したトランス・アレゲニー精神病院。タイトルどおり夜間警備員のジョン・オシェイが主人公だが、本名ではない。このことからして、彼の家族が尋常ならざる運命の荒波にもまれた一端がうかがい知れよう。戦闘以上にすさまじいアクションシーンに思わず息をのみ、一家の別離から再会へといたる経緯にしばし絶句。終盤ややダレるくだりがあるものの、大団円でふたたび盛り上がる。「苦難を乗りこえる力は忍耐と勇気」という単純な真実をあらためて教えてくれる感動作である。