ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lorrie Moore の “I Am Homeless If This Is Not My Home”(1)

 きのう、昨年の全米批評家協会賞受賞作、Lorrie Moore の "I Am Homeless If This Is Not My Home"(2023)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 愛するひとの死はどう受け容れたらいいのか。その死は、彼らとの絶縁を意味するものなのか。この、人類にとって永遠の問題に本書の主人公フィンも直面している。とはいえ暗い悲劇モードはほぼ皆無。ホスピスに入院中の兄マックスとの会話はコミカルで、陰謀理論ワールドシリーズなど多岐にわたり退屈なまでに散漫だが、死の床にある相手とは、とりとめもない話しかできなくて当たり前だろう。とそこへ、元恋人のリリーが自殺し埋葬されたという知らせ。あわてて墓地に駆けつけると、なんと死んだはずのリリーが泥だらけの姿で現れた! 以後、夢か幻想か、はたまた現実か、なんとも奇妙キテレツな物語がはじまる。ときに哀調を帯びつつブラック気味のユーモアに満ち、コミカルでありシリアスでもあり、生と死をめぐる哲学的思索もあればナンセンス劇もあり、まことにオフビートな快作といいたいところだが、いささかまとまりに欠けるのが玉にキズ。ときおり南北戦争後のエピソードが挿入され、肉親の死の受容をユーモラスに描いたものという点では本篇と一致するものの、過去と現在の二部構成にする必然性があまり明確ではない。現代篇だけでじゅうぶん人類共通の課題は見えてくる。「この世にはなにひとつ、真におわるものはない」。死は生のおわりではない、とフィンはいいたげだが、神話の時代から語り継がれてきた話をいまさら聞かされても感動は得られない。神なき時代の死者との交流からは、こんな「奇妙キテレツな物語」くらいしか生まれないのだろうか。