ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Modiano の “After the Circus”(1)

 おととい愛媛への帰省旅行から帰ってきた。宇和島~松山~岡山と乗り継ぎ、東京行き新幹線の車中で、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の "After the Circus"(1992, 英訳2015)を読了。数えて16冊めの Modiano だ。レビューが書けたら、「Patrick Modiano の既読作品一覧とゴヒイキ作品ベスト3」に転載しておこう。

[☆☆☆★★★] 読後しばし茫然。主人公同様、「頭がまっ白になった」。恐れていた結末がこんなかたちで訪れようとは。絶品である。題して『ジャンとジゼル』。ただし、ジゼルが「ぼく」をジャンと呼ぶのは幕切れ近くで、ふたりの関係は一部、読者の想像にゆだねられている。1960年代なかばアルジェリア戦争後のパリ。文学部の学生ジャンは不可解な理由で警察の事情聴取を受けたあと、いれちがいに聴取されたジゼルに関心を寄せる。訊けば彼女の場合も理由は奇異なものだが、そもそもジゼル自身が謎の存在で、彼女を通じてジャンが出会う男たちも正体不明。彼らとジゼルの関係も不明。が、そこにはなにやら危険な香りが立ちこめている。そんなノワールな世界に住むジゼルにジャンが惹かれたのは、彼自身の足もとも危ういからだ。両親は異国に去り、もとより収入もなく、徴兵を逃れようとする日々。十年後、ジャンは当時の舞台を再訪しながらジゼルを想う。過去と現在が重なり、ナチス占領時代の記憶も溶けまじり、胸をかきむしられる。そしてあらゆる謎が謎のまま、ふたりは同じ道を歩みだす。とそこへ衝撃の結末。モディアノらしいノスタルジーに満ちた青春ノワール・ロマンスの秀作である。