もっぱらバスのなか、たまに〈スタバ〉で "The Prime of Miss Jean Brodie"(1961)を読んでいたが、きのうの記事をアップ後やっと読了。Muriel Spark(1918 - 2006)の代表作のひとつで、ロナルド・ニーム監督により映画化もされている。邦題は『ミス・ブロディの青春』(1969)。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] キリストと十二使徒、そしてユダの物語を思い出した。むろんミス・ブロディは救世主ではない。が、働きざかりの彼女はエジンバラの名門女子校の教師として生徒たち、とりわけ六人の愛弟子にたいしてカリスマ化。自由で革新的な教育方針をつらぬくミス・ブロディと、保守的・画一的な教育をむねとする校長および大半の同僚たちとの対立は、さながらキリストと律法学者および一般大衆との関係のようだ。一方、彼女は女ざかりでもあり、ふたりの男性教諭と恋のうわさ。彼らとミス・ブロディ、愛弟子のなかでも高弟たちが織りなすドラマはコミカルかつシリアス、ロマンティックかつセクシュアル。それが切れ味鋭いエスプリの効いた、小気味よいテンポの文章で活写されるうち、やがてミス・ブロディへの「裏切り」の真相が明らかになる。女ユダはだれだったのか。彼女はなぜミス・ブロディを売ったのか。時は1930年代。ファシズムが台頭しつつあり、スペイン内戦も勃発。そんな政治情勢は当初、あくまで時代背景にすぎないと思えたが、じつは、というところがミソだろう。カトリック教会とファシズムとの微妙な関係に斬りこんでいる点もみごと。ただ惜しむらくは、ミス・ブロディの教育理念がひまひとつハッキリしない。彼女は生徒たちをどんな人間に育てたかったのか。彼女の取った行動は自由の理念に反するものだったのではないか。それが裏切りの理由なら整合性はあるのだが、その点もまた明確にしめされているわけではない。画竜点睛を欠いた佳篇である。
