ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2025年ピューリツァー賞発表

 本日、今年のピューリツァー賞が発表され、小説部門で Percival Everett の "James"(2024 ☆☆☆★★)がみごと栄冠に輝いた。昨年の全米図書賞につぐ二冠達成である。

 全米図書賞の発表時、ぼくは上の記事を引きながらこう紹介した。「"James" は名づけて『ハックルベリー・フィンの冒険外伝』。おなじみハックが助演にまわる古典の本歌取りで、このアイデアはかなり成功している。しかも、たとえ『名作の換骨奪胎と知らなくても、アメリカにおける人種差別という、もはや文学史的には陳腐とさえいえるテーマから、よくぞこれほど面白い冒険小説を仕立てあげたものと感心させられる』」。

 また、コロンビア大学による正式発表の紹介文はつぎのとおり。An accomplished reconsideration of 'Huckleberry Finn' that gives agency to Jim to illustrate the absurdity of racial supremacy and provide a new take on the search for family and freedom.
 美点の要約としては、まあこんなものだろう。
 もちろん欠点もなくはない。「トウェインの原作とちがって(主人公の逃亡奴隷)ジム(ジェイムズ)は標準英語も読み書き話せ、夢のなかでなんと、ヴォルテールジョン・ロック相手に自由思想と奴隷制について議論をかわす」。その内容がいかにも陳腐である。
 ほかにも、「戦争の大義や、正義と不正義、過酷な二者択一など、明快な答えのない道徳的難問を小出しにしては引っこめる」あたり、ぼくには自由論同様、シリアスな味つけとしか思えなかった。
 しかしこうした味つけがなく、たんに「面白い冒険小説」だけだったら、おそらくピューリツァー賞も全米図書賞も獲れなかっただろう。勘ぐれば、Everett は賞ねらいにいったのかもしれない。
 などというのはゲスの勘ぐりで、上の欠点もきっと、へそ曲がり、ヤブにらみだからこそ目についたものでしょうな。本書は昨年のブッカー賞最終候補作でもあったが、あのとき落選したのはそんな理由ではなく、同賞の選考委員諸氏も「ヤブにらみ」だったからでは、と思えてならない。
 なにはともあれ、ピューリツァー賞受賞、おめでとうございます!