ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Muriel Spark の “The Prime of Miss Jean Brodie”(2)

 表題作につづき、こんどは "Small Boat"(2023)と "Bleak House"(1853)を併読中。やはりうまくいかない。
 「現代から古典まで」という本ブログの紹介どおり、日本文学でいえば、『源氏物語』を家で、バスのなかで小川洋子を読んでいるようなものだけど、どちらもなかなか区切りのいいところまで進まず、たいてい中途半端。おかげでつい眠くなる。
 それでもコマギレながら、なんとか読了までこぎ着けた "The Prime of Miss Jean Brodie"(1961)。三冊目の Muriel Spark(1918 - 2006)である。
 はじめて読んだのは "Memento Mori"(1956)で、大学のときだった。ある年の夏、それまでイギリスなら Dick Francis, Alistair Maclean, アメリカなら Raymond Chandler, Ross Macdonald などとエンタメ三昧だったぼくは一念発起。たまにはマジメなものを、と思って取り組んだうちの一冊が同書だった。
 が、選択の動機も、読後の感想もまったく憶えていない。memento mori ならぬ memento nihil というわけだ(これって正しいラテン語なのかな)。
 memento nihil といえば、二冊めの Muriel Spark、"The Driver's Seat"(1970 ☆☆☆★★)には驚いた。「たしかに初見のはずだったのに、すっかり黄ばんでしまった Penguin Books 版(1974)になんと、何ヵ所か書きこみがあるではないか。え、これ古本で買ったんだっけ? 最初はアンダーラインだけだったが、つぎに出くわしたのは、どう見てもぼくの筆跡である。
 ところが、いくら進んでも、それどころか最後まで昔の記憶がよみがえってこなかった。キツネにつままれたような間ぬけな話だ」。
 そんな再読?のきっかけはといえば、いつだったか、同書が Lost Man Booker Prize(ブッカー賞の対象年度変更のため受賞作のなかった1970年刊行の作品が対象で、2011年に企画)のショートリストに載っているのを発見。さすがにタイトルだけはどこかで見たおぼえがあり、後日食指が動いた。

 上の Penguin 版の表紙はエリザベス・テイラーの写真で、どうやら、イタリアのジュゼッペ・パトリーニ・グリッフィ監督によって映画化されたとき(1974年)のものらしい。日本では未公開のようだが、『サイコティック』との邦題があり、テレビ放映はされたのかもしれない。
 表題作も(1)で紹介したとおり、『ミス・ブロディの青春』との邦題で映画化されているが(1969)、もちろん未見。これでマギー・スミスがアカデミー主演女優賞を獲得したことも知らなかった。ほら、あのハリー・ポッター・シリーズミネルバ・マクゴナガル先生役を演じた女優だよ、と聞けばピンとくるひとも多いはずだ。

 しかし作品そのものの出来は、(本ブログの採点法のパクリ元)故・双葉十三郎氏の『ぼくの採点表』によると、☆☆☆。「後味がよろしくない」とのことだが、こんな説明もレビューに載っていた。「女子校教師ジーン・ブロディ(マギー・スミス)が二人の男性教師から求愛されるが、嫉妬にかられた女生徒の中傷で学校を退職させられる」。
 この Miss Brodie 退職事件は、じつは表題作のハイライトといってもいいのだけど、「嫉妬にかられた女生徒の中傷」とか、この女生徒が「悪知恵にたけたひねくれ少女」というのは、どうも原作とは若干異なるようだ。つまり映画では、あくまで推測だが、細部を省略して映像化しやすいキャラクターに仕立てているのではないか。
 その細部がじつは原作のキーポイントなのだけど、はて、それをどこまでバラしていいものやら。ぼくはとりあえず、こう投げかけるだけにとどめておいた。「彼女はなぜミス・ブロディを売ったのか」。(つづく)